コラム

メディカルツーリズム

メディカルツーリズム

近年よく耳にするメディカルツーリズムですが、観光立国推進のためアジア各国が医療観光の覇権争いを繰り広げています。
シンガポール、タイ、マレーシア・・・・
グローバル化した今、国内だけで医療や医療サービスを受ける必要はなくなりました。インターネット等の情報網や移動手段が発達し、1日あれば世界のどこにでも行くことができます。質の高い医療やよりよい医療サービスを受けたいなら、国境を超える必要が出てきています。これは、海外の旅先で医療を受けることであり、医療サービスを受けるために海外旅行をするということです。

つまり、「旅+医療」がメディカルツーリズムと言う事になります。
*コロナのパンデミックによりアジア各国は大打撃を受けましたが、2022年には徐々に回復傾向にあります。

日本では「国民皆保険」とされ、国民は何らかの公的医療保険に加入することが定められています。現在は3割の自己負担で一定水準の医療を受ける事が可能です。

しかし日本の医療は、「3時間待ちの3分診療」と言われるようなサービスの低下、最先端医療や特別な医療を受けようとすると保険外診療となり高額になるなどの問題もあります。
それではなぜ今、メディカルツーリズムなのでしょうか。
理由の第一は、国内の医療サービスの質の低下と不便さ、第二は医療費の安さ、そして第三は医療の技術水準の高さです。
このようなメディカルツーリズムですが、特に今、アジア各国が注目されています。

2013
年度メディカルツーリズムで評価の高かった病院 (MTQUA 2013Worlds Best Hospitals for Medical Tourists) が発表されました。

1位にはマレーシアにあるプリンスコート・メディカルセンター、そして6位にタイのバムルングラートインターナショナル病院、8位には同じくタイのバンコク病院メディカルセンターがランクインしました。
また20143月にドバイで開催されたIMTJ Medical Travel Awards 2014では、年間国際病院賞:グレンイーグルス・クアラルンプール年間国際不妊治療クリニック賞:プリンスコート・メディカルセンターと、マレーシアにある2つ病院が受賞しました。
マレーシアそしてタイは、医療関連産業と観光を連携させたメディカルツーリズムを、外貨を誘致する産業として発展させるため、国の政策と位置付け推進している事が結果として表れています。

アジア各国では、メディカルツーリズムを外貨獲得の重要政策としています。

タイでは、1990年代後半から「アジアのメディカルセンター」を目指す政策が始まりました。2012年には、253万人の外国人がメディカルツーリズムでタイを訪れています。2004年、タイ政府が外貨獲得を狙って打ち出したアジアの「メディカルハブ構想」が実をむすんだ結果でした。
同様にマレーシアでも、国家重点経済分野のひとつとして民間医療が挙げられ、メディカルツーリズム振興と、毎年100万人の外国人受け入れ、高度医療機器の設置などによる成長産業として育成することが示されています。1998年1月にはメディカルツーリズム推進委員会ができ、本格的に取り組んでいます。
各国が重要な政策として振興する一方で、高いホスピタリティ精神、コストパフォーマンス、そして欧米などの先進諸国へ医学留学した経験を持つ優秀な医師、高級ホテル並の豪華な設備など自由競争下における民間病院のサービス向上が、メディカルツーリズム人気を下支えしています。

メディカルツーリズムとは、医療を受けることを目的にした海外旅行のことです。また医療を主目的にしないまでも、海外旅行中にオプショナルツアーとして人間ドックや整体などを行う事も含まれます。
具体的には、整形美容やレーシック、卵子提供などの高度不妊治療といった各分野や、健康志向の現代社会では、ウェルネスや健康診断などの分野もあります。
すなわち日本国内では高額な治療、厚労省が認可していない治療、保険適用外の医療などを受けたい場合、それを海外で受診することなのです。
現在、タイやマレーシアといったアジア諸国へは、ヨーロッパや中東、中国、もちろん日本からも含め数百万人のメディカルツーリストが訪れています。

エンジェルバンクでは、海外で行う卵子提供プログラムや代理母出産プログラムなどの不妊治療や世界的に実績のある病院、日本国内ではまだ許認可されていない治療などの紹介やそれを希望する方へは、医療機関のコーディネイトを行います。

「不妊」について

「不妊」 について

不妊という問題が切実な問題として身近に沢山あるにも拘らず、日本では不妊はオープンに語られてきませんでした。その背景には、不妊を恥じる日本人の文化があるのだと思います。
海外のある製薬会社が行った不妊に関する調査で、「不妊について家族や友人に相談し易いか」、「不妊治療に積極的に取り組みたいと思うか」という2つの問いに対して、イエスと答えた率は日本が最下位だったそうです。不妊の問題を自分達だけで抱え込んでいる、という日本の現状が浮かび上がっていますね。不妊治療を行うカップルの中には、それがきっかけで離婚することになってしまったり、うつ病になってしまったという例もあるそうです。不妊をタブー視することのデメリットはそれだけではありません。教育などの場で情報を得る機会が少ないので正確な知識が広がって行かないのです。ネット上には不妊に関する情報が氾濫していますが、根拠の薄いものも多く、また営利目的に偏ったものも少なくありません。

不妊の原因にはいろいろありますが、日本では「不妊は女性だけに原因がある」という偏見がいまだに強く残っています。WHO(世界保健機関)の調査では、男性のみに原因がある場合と男女双方に問題がある場合を合わせて、不妊の原因の約半分のケースで男性が関係しています。日本では前述の偏見のせいで、不妊治療が女性側に偏っており、男性側の対策はほとんどされていません。不妊治療は必ず夫婦揃って受診することが大前提で、男性の不妊原因に対する理解をもっと高めることが望まれます。
知識不足の2大問題は、不妊原因に対する理解不足と卵子の老化に対する知識不足です。女性の妊娠力は36歳を境として低下して行きます。先日引用した調査に於いて、卵子の老化についての日本人の正答率は30%に達しておらず、先進諸外国に比して極めて低い数字です。「卵子が老化する」という事実を見過ごし、出産を先送りにしてしまい、不妊治療で悩む人が増えているのです。身体の中で卵子だけが老化しないと考える人はいないでしょうが、女性が妊娠する力が意外と若い時期から下がり始めるという事実はまだ十分に理解されていないと思われます。

具体的な男女それぞれの原因ですが、男性不妊の場合には、精子の問題(無精子症・乏精子症)、精巣の問題(精索静脈瘤)、セックスレスの問題(EDや射精障害)などが考えられます。
次に女性不妊の場合には、排卵障害、子宮着床障害、卵管障害などの直接的な要因となる不妊体質、生理不順、生理痛、不正出血、などの身体的不安、また年齢的要因や、精神的ストレスなど、直接的ではないにしろ妊娠に大きく影響しそうな要因などいろいろな問題があります。
しかし不妊症の疑いがない男女が、排卵日に性生活をしても、妊娠する確率は20%程度(個人差があります)と言われていますので、妊娠とは、偶然に偶然が重なってようやく実を結ぶものと言えます。

厚生労働省が2007年に実施した「生殖補助医療技術に関する意識調査」によると、既婚者のうち「不妊に悩んでいる」または「過去に悩んだことがある」と答えた人の割合は、結婚期間23年で28&45年で22.3%69年で29.1%だったと報告されています。つまり、結婚10年未満の夫婦の2割以上が不妊に悩んだ経験があるということになります。

同じく厚生労働省の調査によると、平成23年の平均初婚年齢は、夫30.7歳、妻29.0歳となり、夫、妻ともに前年より0.2歳上昇しています。上記の調査から、日本では40歳位の夫婦の場合、30%弱のカップルが不妊で悩んでいると考えられ、不妊治療をするカップルの数は、年々増加する傾向にあります。
米国の場合、日本のように10年近くも不妊治療はせず、40歳以上の年齢だと、すぐに「卵子提供での体外受精」「代理母」や「養子」などの次のステップを勧められるといいます。

女性の不妊

晩婚化に伴い、当然子供を産む年齢が高齢化する「晩産化」 も着実に進行しています。2011年の政府統計では、第1子出産時の母親の年齢が30.1才と初めて30才を超えました。生まれた子供の数も105万人強で調査を始めて以来最少となっています。特徴的なのは、34歳以下の女性の出産が減少傾向にあるのに対して、35才以上のアラフォー世代の出産が増加傾向にあることです。
不妊治療の現場にも高齢化の波は押し寄せています。不妊治療を行っているクリニックの医師の実感として、「もともと比較的高齢の患者さんは多かったけれど、ここ数年で一段と初診年齢が上がっている」という声が聞こえてきます。以前は30代前半だった初診患者の平均年齢が、最近では3839歳のアラフォー世代が中心になり、患者のおよそ半分は40代になっているそうです。
日本産婦人科学会が公開している不妊治療を受けた患者の全国データでも、40代の割合は2009年には34.4%になり、しかもなお増加傾向にあります。
2006
年にプロレスラーでタレントのジャガー横田さんが45才で妊娠、出産し、大きく報道されました。その影響で、「自分でもまだ産めるのでは」との期待を持つ40代の初診患者がかなり増えたという現場の声もありました。

子供が欲しいと、真剣に妊活に取り組んだアラフォー世代の女性たちが、そこで初めて直面するのが、高齢での妊娠そして出産の難しさです。
妊娠は精子と卵子が受精して初めて成り立ちます。卵子の数は、女性が母親のお腹の中にいる時がピークで、その後閉経年齢まで減り続けて行くのです。一方精子は、毎日新しく作られるのに対して、卵子は減り続け、しかも老化するに従って妊娠力は落ちてゆきます。
ある不妊専門誌のデータでは、19~26歳の女性では自然妊娠の確率が50%ぐらいあるのに対して、27~34歳では40%位に、35~39歳では30%位まで落ちてしまうそうです。
女性が自然妊娠する確率は20代後半から確実に落ちて行きます。40代での出産例は確かに増加していますし、妊娠力に個人差もあるのですが、一般に加齢した卵子では妊娠に結び付く確率は下がります。この卵子の老化についての情報が、まだ十分に浸透していないのは大きな問題です。妊活を始めて、初めてこの事実を知り、もっと若い時から取り組んでいればと悔やまれる方は大変多いです。

女性の不妊原因で最も多いのは、「排卵因子」です。
「排卵因子」は体質のほか、過度なダイエットやストレス、ホルモン異常、そして、卵巣組織に小さな卵胞(卵の袋)がたくさん発生し、卵巣が腫れて大きくなる「多嚢胞性卵巣症候群」などによって、卵子が排卵されにくい、あるいはまったく排卵されないというものです。
排卵因子のほかにも、卵管が詰まったり、癒着が生じたりすることで、精子と卵子が出会えなくなる「卵管因子」、子宮の形に異常があったり、筋腫などがあることで胚が子宮に着床しにくい「子宮因子」、膣から最も近い頸管に異常があり精子が子宮内に入りにくい「頸管因子」など、様々な原因があります。
近年、女性の晩婚化と初産年齢の高齢化に伴って、子宮内膜症や子宮筋腫などの婦人科系疾患が増えていることも、不妊を招く原因として問題視されています。
子宮内膜症は、本来子宮の内側にあるべき内膜が外側にもできてしまう病気です。
子宮内膜症があると、腹腔内に癒着が起きて卵管を閉塞させてしまい、卵子を取り込めなくなります。その結果、受精できず不妊症に至るケースが多くなります。
このほか、20~30代の若い女性のがん罹患率で最も高い子宮頸がんや、30代に急増する乳がんも、妊娠・出産の妨げになります。放射線や抗がん剤による治療期間中は妊娠を控える必要がある上、症状によっては子宮や子宮周りの臓器を摘出しなければならない場合があるからです。

また不妊の原因の一つに、女性の年齢があります。
現在、不妊のカップルが増えているのには、いくつかの社会的背景がありますが、最も大きいのは女性の社会進出と晩婚化にあります。女性にとっての妊娠適齢期は20代と言えます。30歳を超えてから結婚し、仕事の都合などでほんの数年間避妊をすると、あっという間に35歳を過ぎてしまいます。35歳を過ぎての初産は現在では珍しいことではありませんが、35歳を過ぎると、年を追うごとに妊娠しにくくなることを知っておく必要があります。
女性は生まれた時、既にその体内に原子卵胞という卵子の素を持っています。そして思春期になると、そこから毎月1つずつ成熟した卵子が飛び出し、卵管の中で精子との出会いを待ち、思春期には未熟だったその機能も20代には充実し、30代からは少しずつ卵子の老化という現象が起こります。35歳を過ぎると、その老化のスピードはグンと速くなります。体外授精では、どれだけ質の良い卵子を得ることができるかが重要です。個人差があるものの、女性の年齢が35歳を過ぎたら、体外受精の順位は高く考えた方がいいと思います。
男性は、女性に比べて年齢の影響はさほどありませんが、精子のコンディションはストレスなどの影響を受けやすいので、仕事の責任が重くなる40代になると、精子の数や状態が悪くなってしまうことがしばしばあります。

最近増えている子宮内膜症も症状、病期によっては体外受精の適応となります。子宮内膜症の病期は14期に分けて診断されますが、その34期、子宮内膜症の症状がひどい場合です。子宮内膜症とは、本来は子宮内部で成長する子宮内膜が子宮以外の場所、卵管や腹腔などに増殖する病気で、これが障害となって卵子はその通り道をふさがれたり、着床できず、受精や妊娠に至ることができないことがあります。子宮内膜症は生理があるかぎり、悪化しやすいので、一時的に生理を止める治療が行われることがあります。偽閉経療法や男性ホルモンを投与する治療法がそれですが、いずれも46か月の間生理を止めることになります。これは、妊娠を望む人にとっては辛い選択です。また、偽閉経療法は、子宮内膜症の治療としては有効でも、最終的な妊娠率は向上しないという報告もあります。従って、女性の年齢が高かったり、不妊治療歴が長いケースでは、体外受精にステップアップ、ジャンプアップすることが大きな選択肢となります。

検査と治療の方法ですが、まずは腹腔鏡検査です。お腹に小さな穴を開けて、そこから内視鏡を入れて内部の様子を観察したり、場合によっては治療を施すというものです。欧米では機能性不妊(原因不明不妊)という診断をするためには、腹腔鏡検査が必須項目として位置付けられています。ところが、腹腔鏡は手術室で全身麻酔下で行う治療で、リスクも伴います。不妊治療が大病院からクリニックにシフトしている日本の現状では、どこでも行えるものではないわけです。従って、これをどう位置付けるかは非常に難しく、腹腔鏡を全く評価していないところもあれば、非常に重視しているところもあるという現状です。
更に、この検査は、医師の技量に頼る部分が大きいため、腹腔鏡検査どうするかは病気の状態と、医療機関の考え方をよく話し合って決めることになります。子宮内膜症の34期に体外受精が有効といわれていますが、その前に腹腔鏡検査を行うことは選択肢の一つです。これは子宮内膜症の状態をチェックし、場合によっては、腹腔内の癒着などをその場で取り除く検査ですが、内膜症が12期の場合、この腹腔鏡検査後、自然周期で妊娠したという報告は多数あります。腹腔鏡検査では検査後、生理食塩水などで腹腔内を洗浄することにより、子宮の周囲の癒着が改善し、妊娠しやすくなると考えられます。
子宮内膜症などで、腹膜癒着が疑われるケースでは、腹腔鏡の適応になると思います。腹腔鏡検査を行い、そのあと半年~1年の間はタイミング法で妊娠にトライしてみるという選択肢もあります。しかし、これだけIVFが普及してくると、リスクを伴う腹腔鏡よりは、それを飛ばしたいと考える方もあるでしょう。腹腔鏡検査は治療費も高額で、IVFまではいかないものの、それに近い額がかかります。そうすると、腹腔鏡をとるか、体外受精をとるかという一つの選択肢もないのではないということになります。 一度腹腔鏡の検査をするとしばらくは自然妊娠の確立があがるので、自然妊娠にこだわりたい方や、年齢的に余裕がある場合には、妊娠に近づくための一つの手段として、選択肢に入れてもよいのではないでしょうか。
腹腔鏡検査は、通常全身麻酔下で行う手術に準じた検査です。技術は良いにこしたことはありませんが、気をつけておかなければならないのは、腹腔鏡検査の技術や、それに伴う入院日数は医療機関によりまちまちだということです。入院日数はそれぞれのライフスタイルに直接関係してきますので、自分に合った施設を選ぶことが重要です。
子宮卵管造影検査に関しては、女性の年齢にもよりますが、腹腔鏡とは違って必須の検査だと思います。これによって卵管の通過性の有無を確認できます。また、子宮卵管造影を行った後に妊娠しやすくなるという事実があります。しかも、腹腔鏡のように高額ではありません。若干痛みを伴いますが、自分の状態を知ることは大切だと思います。ジャンプアップという選択肢があるにせよ、子供がほしいからすぐ体外受精というのは極端な考え方だと思います。自分の状態を画像情報として得られ、しかもコストパフォーマンス、あるいはリスクパフォーマンスを考えた場合、子宮卵管造影検査のもたらす情報と治療効果は非常に大きいといえます。子宮卵管造影検査では、キャッチアップ障害についてもある程度の情報を得ることができます。両方の卵管が詰まっていたら体外受精が唯一の選択肢ですし、卵管因子の場合における体外受精での妊娠率は高いという事実もあります。子宮卵管造影検査はX線検査の一種で、卵管の通りと子宮の形態が正常かどうかを検査するものです。造影剤を子宮内に注入し、卵管に達し、卵管が通っていれば、造影剤は骨盤腔に達するため通過性が分かります。この検査は外来検査で30分で終わります。
妊娠早期に検査するのを避けるために、生理が終わった後、排卵期に行います。子宮卵管造影検査による放射線被爆量は、消化管の造影検査などに比べれば、問題にならない極わずかな量であり、検査を行った周期に妊娠しても大丈夫です。

男性不妊(1)

 日本では、男性の不妊に対する意識が欧米の先進国に比べて低いと言われています。「妊娠を望んでいるのになかなか妊娠しない」という悩みを抱えているご夫婦の中には、「精子」に問題があることに気付かず、ご主人側の検査を全く行わずに悩んでおられる女性も大変多いようです。 「妊娠しないのは女性のせい」とばかり思い込んでいる人が多く、女性ばかりが治療や検診に足を運び、「ご主人が全く検査を受けていない」というケースがまだ多いことに驚かされます。
実際は、子供が出来ない原因の約半分のケースに、男性が関わっているのです。日本では男性の理解がまだ十分ではないようですが、男性不妊の原因には、「乏精子症」、「無精子症」、「精子無力症」、「勃起障害」・・・等があり、これらの名称自体が男性の心にぐさりと刺さるような印象です。
でも不妊治療を考える時には、男性側の問題から目をそらしてはいけません。
また卵子が「ある」だけでは、即妊娠につながらないのと同様に、精子についても「ある」と考えられている(つまり射精できている)だけでは、妊娠につながらないことが多々あります。どういうことかというと、精子は存在するだけでは駄目で、ある一定数の精子があり、一定の形状を持った精子でなければならず、またある一定の運動率を示していなければ、自然に卵子に到達し、受精することができないという事実です。精子や精子が作られるメカニズム、男性不妊の原因となる病気についても是非勉強して下さい。

次に原因が特定できれば適切で効果的な対策を取ることが出来ます。不妊に悩む方は、まず夫婦揃って専門医に相談をしましょう。男性にとって病院や専門クリニックは非常に行き難いところのようです。まずは、奥さんと一緒に産婦人科を受診することが一番手軽です。精液検査をしてもらって、結果が思わしくなければ、「男性不妊外来」のある施設を紹介してもらいましょう。
しかし、男性不妊の専門医の数は非常に少ないのが現実です。日本生殖医学会に登録している専門医は、僅か50人ほどという数字には驚きです。しかもそのうちの多くの医師は、一般泌尿器を担当しながら男性不妊を診ているそうです。女性の不妊治療では、日本は世界のトップクラスの水準にあるそうですが、男性不妊ではまだまだはるかに後れを取っています。日本では生殖医療を産婦人科医が行うため、男性側の診察をいっさい行わずに、すぐに体外受精や顕微授精が行われてしまうケースも多いそうです。これは大きな問題です。男性に原因があるにも拘らず、女性だけがズルズルと不妊治療を受け続けて時間だけが過ぎて行く、というようなことは避けたいものです。

男性不妊の専門医の先生の話を聞いても、男性が持っている不妊の原因に関する知識は乏しいようです。男性側に不妊の原因がある場合、その原因が特定されればかなりの確率で妊娠という結果が期待できる対処法が存在しています。原因によっては、体外受精や顕微授精が本当に効果的だと言えます。

卵子が加齢により老化するのと同じように、精巣や精子も加齢により変化することは想像に難くありません。しかし精子成熟過程の詳細な内容はまだ解明されていません。そこに問題があることは事実です。精子の数や活動性の減少はストレスなどに影響されるとよく言われています。それも根拠のない話ではありません。専門家に診察してもらうことにより不必要なストレスから解放されることも多いと思います。
数年前に、トマトの赤の色素であるリコピンが精子運動率の改善に効果があるという研究発表がありました。そこで、トマトジュースを継続的に摂取すると精子に何らかの良い効果がもたらされる可能性があります。日常生活の中でのささやかな試みとして試されては如何でしょうか。

男性不妊の治療を経てお子さんを授かった作家、ヒキタクニオさんがその不妊治療の軌跡を「ヒキタさん!ご懐妊ですよ」という本にしています。

ここまで率直に不妊治療の経験を描いた本は初めてと言われています。「ご主人が不妊治療に協力しないから説得して欲しい」という女友達のリクエストに応えて書き始めたそうですので、ご主人の理解を得られずに悩んでいる方には力強い味方になるのではないでしょうか。ヒキタさんが言っています。男にとって大変なのは、子どもができたときの楽しみを知らないままに、不妊治療の苦難に立ち向かわないといけないこと。実際に子供が産まれれば、男にも「子どもはかわいい、こいつのためにものすごく働いてやろう」という気持ちがでてくる。でも実際に産まれない限り、その気持ちは出てこない。そこが女性とは違うところ。だから世の中に対して、「子どもがいるとこんなに楽しいだ」ということを伝えていくことも大切だと思います。

男性不妊(2)

「妊娠しない」という現実に対して、とかく原因は女性側にあるように考えてしまいがちですが、何と、約4割は男性側が原因ということが分かっています。これを男性不妊といいます。
今更ながら当たり前のことですが、妊娠が成立するためには3つの要素が必要となります。それらは、「卵子」、「精子」、「子宮」です。卵子と精子が無事出会って受精し、受精した後にできた「受精卵(胚)」が子宮内膜に着床(妊娠成立)しなければなりません。これらの3つの要素が揃わなければ、「妊娠」という第一歩が成立しません。
これは、とっても当たり前のことですから、「なんだ、そんなことは誰でも知っている」と思われるかもしれません。しかし、厳密にいうと、これは「生殖力のある卵子」と「受精卵が着床可能な子宮」と「受精能力のある精子」が必要である、と言い換えることができます。もちろん、女性が担当するのは、いうまでもなく、このうちの「卵子」と「子宮」です。男性が担当するのが「精子」です。
まず不妊検査ですが、女性に比べ、男性の検査はとても簡単で、精液検査と感染症の採血のみです。精液には量の問題と質の問題があります。量の問題とは精子数が少ない事、そして質の問題とは動きが悪い事です。近年、男性の精子数が減少している地域がある、と言われています。原因としては、環境汚染や農薬などの環境因子や内分泌攪乱因子が関係していると考えられていますが、詳しいことは判っていません。結果として、男性不妊は日本だけでなく世界中で増えているようです。
男性不妊の原因には、大きく分けて次の三つが考えられます。

1、造精機能障害:精子を作る「精巣」の機能に問題がある場合。精子の数が少ない  (又は無い)、運動率が低い、健康な精子が少ない。
2、精路通過障害:精子は作くられているが、通り道の「精管」などに問題がある場  合。射精した精液に精子が少ない、又は含まれない。
3、性機能障害:ED(勃起不全)や射精障害のため、精液を射精できない場合。男性  不妊症でもっとも多いのは造精機能障害で、約70%を占めています。
性機能障害を除けば、自覚症状はほとんどありませんので、射精できるから大丈夫と考えがちです。しかし精液に健康な精子が十分含まれているかを知るためにも、一度は検査を受けて下さい。

近年、卵子の老化ということをよく耳にしますが、精子も加齢による影響は大きいと考えられています。精子の質は10代がピークで、精子の数は35歳以降で毎年1.71%低下、精子の運動率は44歳以降で毎年1.74%低下します。

精液検査では、WHOの新基準(2010)を基に、次の項目について調べます。
1、精液の量:1回の射精で、精液の量が1.5mL以上あるか。
2、総精子数:1回の射精で、精子の数が3900万以上あるか。
3、精子の濃度:精子の数が、精液1mL中に1500万以上あるか。
4、精子の運動率:精子の活動性を見て、活発に動いている精子が、全体の40%以  上あるか。
5、精子の正常形態率:形のよい精子が全体の4%以上あるか。
これらの基準はあくまでも目安です。基準値を下回っていても妊娠した例は数多くあります。また、精子の状態は採取したときの心身の状態によっても異なるため、通常は複数回検査を行ってから不妊症かどうかを診断します。

精液検査で不妊症が疑われた場合には、次の検査で原因の確認を行います。

1、精巣の大きさ : 一般的に精巣の大きさは精子の数に比例すると言われ、精巣が小さい場合は、精子の数も少ないと考えられます。
2、精巣の炎症の有無 : 尿中の細菌やおたふくかぜのウイルスなどが原因で精巣に炎症が起こると、精子をつくる機能が低下することがあります。
3、精索静脈瘤の有無 : 精索静脈瘤は、精子をつくる機能を障害する代表的な病気  で、精巣から心臓へ流れる静脈の血液が逆流し静脈の一部がこぶ状に膨れるも  のです。静脈瘤にたまった血液によって精巣が温められるため、精子をつくる機能  が低下します。
4、ホルモンの値 : 生殖能力に関わるホルモンの分泌量を調べます。ホルモンバランスが崩れていると、精子をつくる機能が低下します。

現代社会には、精子の数と運動率の両者を低下させる要因となる様々な生活習慣があります。それは、カロリーが高く栄養価の低い食品の摂取、不規則な食生活、多量の喫煙や飲酒、精神的・肉体的なストレスや疲労感などです。

精子の質は、生活習慣を見直すことで飛躍的に改善すると言われています。精子の状態は、全身の健康状態を表すバロメーターにもなります。
ED
などの機能障害も、生活習慣の変化と共に潜在的に増えています。まずはストレスを減らすことが大切ですが、医療機関では内服薬を処方することもあり、膣内射精をできない場合には、人工授精が選択肢になります。

潜在的な男性不妊症患者は、推計60万~80万人いると言われています。

精液検査を行った結果、精液中の精子の数が少ない乏精子症は、多くの場合人工授精や体外受精が必要になります。
乏精子症の原因の一つと考えられる精索静脈瘤があった場合は、外科手術が基本になります。乏精子症患者の多くに、精索静脈瘤があり、男性不妊の最も多い原因と言われています。治療は、静脈瘤ができている血管をしばり、血液の逆流を止めることです。術後は、精巣内の温度が下がることなどから、精子が形成されやすくなります。
また無精子症と診断された場合でも、精巣や精巣上体で精子を見つけ、その上で顕微授精を行なえば、妊娠の可能性があります。

男性不妊への最後の解決策として、AIDという方法があります。

これは非配偶者間人工授精のことで、無精子症など絶対的男性不妊の場合に適用される治療法です。ドナーの精液を使用し、人工授精にて妊娠を試みます。
男性不妊に対するあらゆる治療を行ったにもかかわらず、 妊娠に至らず、それでもどうしても子供が欲しいという場合に選択されます。
この方法での妊娠希望者については、ご夫婦の意志を十分に確認したうえで、以下の2つの場合に当てはまるかを厳格に判定し行うことが一般的です。
適応するのは、無精子症の場合、または精巣精子回収術(TESE)を行ったが精子が認められなかったまたは微量の精子は認められるものの妊娠のレベルにはない場合になります。
さらにこの方法は、第三者の精液を用いるため、倫理感や宗教的、法的問題を含んでいることにも留意しなければなりません。

男性不妊(3)

不妊の男性因子には、精液の中の精子の数、精子の運動能、精子が精巣で造られているか、セックスができるかなどの因子があります。 
精液の中の精子の数や運動能は、精液検査を行えば一目瞭然です。検査の結果が思わしくなければ、その原因を探るために次のステップへ進みます。精液を顕微鏡で覗くと、正常な場合、そこでは70%以上の精子が元気に動きまわっています。そして1ミリリットルの精液の中に、5000万~1億程度の精子が存在しています。これが少ない場合を乏精子症、全く精子が見られない場合を無精子症といい、運動能力を持つ精子が50%以下の場合を精子無力症といいます。もっとも、日本では精子の数の正常基準値を1ミリリットルあたり5000万以上としていますが、WHOでは2000万以上としています。精液検査での結果が思わしくなければ、もう一度精液検査をしてみるということも大切です。検査時期をずらしたり、医療機関を変えるなど、すこし環境を変えただけで精液検査の結果がよくなることもしばしばあります。
女性の体と同じく、男性の体も精子に関してはとてもデリケートです。その時の精神状態やストレス、健康状態などにより、精子の数や運動能は異なります。ですから時期や医療機関を変えて再度検査を行い、2度目の検査でも結果が同じならば、そこから解決策を考えればよいのです。

体外受精が第一の選択肢になるのは、重度の乏精子症、精子無力症、そして精液中に精子が無いのに精巣には精子があるという場合です。
精巣から直接精子を採取できれば無精子症でも顕微授精が適応となります。顕微授精はたった1つ、質の良い精子があれば受精は可能です。
ヒューナーテストは、その見解が大きく分かれる検査です。この検査は、女性の体内で精子が正常に動いているかどうかを調べるのですが、精液検査と同じくとてもデリケートで、二人の体調やその時の状況で結果は変わってきます。ヒューナーテストの結果がよくないといわれても、その後タイミング法などで妊娠することもよくあります。ヒューナーテストについては、いろいろな見解がありますが、1回でも検査結果が良ければそれで十分だと思います。

ストレスの多い現代社会のせいでしょうか、精子の状態が万全でない男性が極めて多くみられます。過去のおたふく風邪や、高熱の影響などで精子の状態が悪くなってしまった男性もいます。ある医療機関では、患者さんの8割以上で運動率が一定に達していないということで顕微授精の適応になっているという驚くべき事実もあります。この高い数字は、必ずしも一般的な割合ではないと思いますが、ご主人の検査がいかに大切なものであるかを物語っていると言えるでしょう。しかし逆にいえば、精子の場合、このような手段が存在するため、ほとんどのケースでは、技術を借りて受精能力のある精子を選別することができ、男性不妊にとっては画期的な状況といえます。一世代前には、お子さんを授かることをあきらめなければならなかったケースも、あるいはそういう状態であることを知らずにいつしかお子さんを授かることを諦めていたケースも、今ではこの顕微授精の適用によってお子さんを授かることが可能となっています。但し、確率的には極めて低いのですが、稀に無精子症である場合もあります。その場合は、精巣精子回収術などが試みられる可能性を検討することになります。もちろん、勃起しない、射精できない、といった症状がある場合は、初めから泌尿器科検診が必要となります。

女性については、年齢が「妊娠適齢期」と「妊娠偏差値」の鍵を握っていますが、男性の場合は、実年齢については女性ほど深刻な影響はないようです。もちろん、年齢が若い方が良い結果になる、といった傾向はあるものの、精子については、常に新しいものが生成されているので、女性の場合ほど年齢がすべてを物語らないのです。精子の状態も、その男性がいかなるスポーツマンで屈強な身体をしていても、検査をしてみなければ受精能力については分からない、ということになります。今、体外受精において顕微授精という手段があるため、精子の提供を受けなければ受精は不可能、というケースの割合はぐんと減少しています。ですから、ご主人には、「結果が多少悪くても、絶対に子どもが授からないという可能性はとっても低いから、心配しないで出かけてね」と優しく促してください。それから、ブライダルチェック(花嫁検診)のセットとして、男性側の検診も同時に行ってくれるクリニックもあります。
二人揃って最初から出かけてしまうのもちょっと恥ずかしいかもしれませんが、二人の将来のためにとっては良いことだと思います。

最後に、男性不妊の改善に効果のある食品やサプリメントをご紹介します。
精子は、活性酸素の攻撃を受けやすいため、活性酸素を消去する働きのある抗酸化ビタミンを緑黄色野菜や果物からとるようにします。
またそれを補完するため、ビタミン剤(ビタミンECB12など)やサプリメントも活用して下さい。これは、精子運動率の改善に繋がります。
トマトを加熱処理したトマトソースやトマトジュースなどに含まれるリコピンも、精子運動率の改善に効果があるそうです。
精子濃度の改善には、ビタミンB12や葉酸が有効とされています。
亜鉛は、精液量を増やす効果がありますが、精子数(造精機能)には影響を与えないと言われています。しかし亜鉛不足は、抗酸化力を落とす可能性があり、成人男性で112mgといわれる推奨摂取量を維持して下さい。
南米ペルー原産の「マカ」は、必須アミノ酸の含有バランスがよく、鉄や亜鉛を豊富に含み、アルカロイドやフラボノイドといった植物性有機化合物も多数含まれていますので、滋養強壮植物としては貴重な存在といえるでしょう。

またマカには、成長ホルモンの分泌に深く関係しているアルギニンという必須アミノ酸が含まれており、精子をつくる機能もサポートすると言われています。
軽度の乏精子症や精子無力症には、非ホルモン療法として、漢方薬やビタミン剤とともにLカルニチン、コエンザイムQ10などのサプリメントが処方されることもあります。

人生の選択肢

人生の選択肢

女性なら誰でも、「子どもは何人欲しい」とか、「何才までに結婚したい」とか考えたことがあると思います。
この素朴な願望は、年齢に関係なく、物心ついた頃から誰もが考えることだと思います。そして、成長するにしたがって、社会背景の影響を受けながらより具体的なイメージが形成されるのではないでしょうか。
結婚を「する」のか「しない」のか、子どもが「欲しい」のか「欲しくない」のか、とかいろんな考え方がありますが、いざ子どもが欲しいと思った時に後悔をしないために、「子どもは何歳まで産める?」ということを知っておくことは大切だと思います。「女性は何歳まで子どもを産むことができるか?」あるいは「女性はいつまでに子どもを産むべきなのか?」というような疑問は、ひと昔前までは、決して出てこなかった疑問のように思います。今日に於いては、多くの人生の選択肢が女性にも可能になっています。ひと昔前のように「結婚・出産」の目安になっていた年齢の枠決めが、もうあてはまらなくなっているためだと思います。
少し前までは、25才頃までには結婚し、30才までには第1子の出産を終えるのが世間の常識として定着していたのではないでしょうか。しかし、女性の自立やキャリアアップが可能になり、豊かな生活の中で無理に結婚をせずとも女性が幸せに生きていける環境ができてきた今の社会では、そのような昔ながらの枠組みどおりに人生を歩む女性が少なくなってきているように思います。
女性の生き方の選択肢が広がった結果、晩婚化が進み、子どもを欲しいと考える年齢も高くなってきています。それは、社会的な観点からは素晴らしいことなのですが、女性が子どもを産める期間というのは、生殖学的には、ひと昔前となんら変わっていないという事実は認識しておかなくてはならないと思います。
人生をエンジョイしてきた女性が、「自然に子供が授からない年齢」に達することに気づいておらず、それに気づいた時には「どうしてこんなことに?」と呆然としてしまうのを見ることは珍しくありません。女性の自立やキャリアなどが確立された一方で、「子どもを産む」という話題は、「女性は子どもを産む道具ではない」という、女性解放のコンセプトに反するものとして黙殺されてはいないでしょうか。

「子供を産む」ということを、ただ古くさいコンセプトだと思っていませんか?
「子供を産む」ことについての情報が、改めて議論をする話題にならず、正しい情報を求めようとしても、なにか聞きづらい話題になってしまっているのではないでしょうか?
今の日本は少子化が大きな問題になっています。東京都の23区では一夫婦あたりの子どもの数が一人以下という前代未聞の記録を更新してしまいました。このような事実をなんとなく他人事と思ってはいませんか? 女性の社会的地位が認められてきた今こそ、女性の特権である「子どもを産むこと」そして「子どもを産むかどうか」あるいは「いつ産むか」という選択肢について、改めて考えていただきたいと思っています。 「子どもを産むかどうか」あるいは「子どもをいつ産むか」ということについて、具体的にどのような選択肢があるのかを考えてみたいと思っています。

子宝を授かることを望みながら子供ができないご夫婦は、世の中にたくさんいます。不妊治療を行ってもなお結果が出ない方も多くいます。そして、究極の選択しに望みを託さる方も年々増えつつあります。

生殖補助医療の究極の選択肢といわれているのは、卵子提供プログラムや代理出産プログラムです。ご自身の卵子では妊娠が困難あるいは不可能という女性が、第三者から卵子の提供を受けてご主人の精子と体外受精して得られた胚をご自身の子宮に移植し、妊娠・出産する、というのが卵子提供プログラムです。
また子宮がんなどの理由で、ご自身の子宮を摘出してしまったり、子宮がない状態で生まれてきた女性が、代理母に代理妊娠・代理出産をお願いする、というのが代理出産プログラムです。
そして、何らかの理由で卵巣と子宮の両方をなくされたり機能していない場合は、この2つのプログラムのコンビネーションである、ドナー卵子による代理出産プログラムも存在しています。

当たり前のことですが、ほとんどの女性は卵子提供プログラムや代理出産プログラムといった究極の高度生殖医療の力を借りずに自然にお子様を授かる幸運に恵まれます。しかしながら、逆に、子宝を授かることを心から望んでいるにも拘わらず、これらの特別な手段を経なければ、お子様に恵まれることができないご夫婦の数が想像以上に多いことも事実です。そのようなご夫婦は、私たちの身近にもいらっしゃるかもしれません。
生殖医療の新しい選択肢を選ばれたご夫婦は、そのような特別な手段を経ずともお子様を授かったご夫婦と同じように、今お子様を囲んでの「普通の幸せ」を手に入れて、家庭生活を送っているのです。

不妊治療

不妊治療の費用

不妊治療には、大きく分けて一般不妊治療と高度生殖医療(ART)の2種類があります。実際にどれぐらいかかるのかを治療のステップを追って見てみましょう。
最初は検査です。検査は大体どこの病院でもほぼ同じです。
癌検査と精液検査以外は、基礎体温表の周期に合わせて進めますので、すべての検査が終了するのには45週間かかるのが普通です。検査はほとんどの項目で保険が適用されますので、女性の初診検査は1万2~3千円程度、男性の精液検査は56千円程度です。卵巣年齢を調べるアンチミュラーリアンホルモン(AMH)」検査は保険適用外になります。検査は不妊原因を調べるためのもので、不妊症と診断するためのものではありません。検査が終わって、原因不明であれば、異常が無いということですので、よかったと思って下さい。
基本的に、検査だけで治療が終わることはありません。不妊治療のゴールは子どもを授かることですので、ここからがスタートです。

不妊治療には、癌などの病気に見られる「標準治療」や「治療ガイドライン」などがありません。その理由としては、カップルごとに不妊の原因が異なることや、原因不明が多いこと、妊娠という明確な結果に重点が置かれる点などがあげられます。そのため、通常それぞれのカップルにあったオーダーメイドの治療が行われます。
一般に不妊治療は、3つのステップに分けられます。第1ステップはタイミング法、第2ステップは人工授精で、ここまでを一般不妊治療、第3ステップの体外受精(IVF)からは高度生殖医療(ART)と呼んでいます。患者さんの個別の症状や状態などに応じて、(1)(2)(3)とステップアップして行きます。不妊治療を妊娠率と治療にかかる費用の観点から見ると、治療がステップアップすればするほど、妊娠率は上がりますが、身体への負担や費用は大きくなります。

第1ステップのタイミング法とは、排卵日の前後に性交渉を行う方法です。
基礎体温表をつければ、自分でもある程度は排卵日を予測できますが、病院で超音波検査を行うと、より正確に排卵日の予測ができます。若いカップルで時間的に余裕があり、何の問題もない場合はタイミング法がお奨めです。
数年妊活をしたにも拘らず子宝に恵まれないカップルの場合、年齢も35歳以上が多くなり、タイミング法の妊娠率は実際のところ56%に過ぎません。
ですから、30代後半の方は早めに人工授精に移ることを考える必要があります。
タイミング法や排卵誘発などの治療は保険が適用されますので、費用は1回あたり数千円程度です。

第2ステップの人工授精とは、細いチューブを用いて、精子を女性の子宮あるいは卵管に人工的に送り込む方法です。
授精は患者さん本人の卵管で行われますので、完全な自然妊娠です。男性は、「人工」という言葉に抵抗を持つ方が多くいます。男性が「そんな人工的なことまでして子供は欲しくない」と言って、治療が進まないケースがよくあります。女性のやる気が十分であれば、しっかりと説明して男性にもわかってもらう必要があります。
精液所見が正常な男性と不妊原因が認められない女性のカップルの場合、人工授精の1周期当たりの妊娠率は、7~9%程度です。4~5周期続ければ累積妊娠率は20%程度にまで上がります。ただ、それ以上回数を増やしても妊娠率は向上しませんので、5周期行っても妊娠しない場合には体外授精へのステップアップを考えた方が良いと思います。人工授精の費用は1回あたり15千円~2万円です。
不妊治療は高額なイメージがありますが、人工授精までなら、家計を大きく圧迫するほどの負担にはならないレベルです。

第1ステップのタイミング法と第2ステップの人工授精で、23年に内に45割の方が妊娠しますが、成功率は施設により多少のばらつきがあるようです。タイミング法と人工授精で妊娠しない場合、普通は2年間、35歳以上の方約半年で、体外受精へ移ることを勧める病院が多いそうです。患者さんにすぐに体外受精を勧める病院もありますが、できるだけタイミング法や人工授精による自然妊娠の可能性を追求するのが良いのではないかと思います。

第3ステップの体外受精とは、卵管を経由しない授精の方法です。卵巣から卵を取り出し、精子と卵子を培養液の中に入れておくと、卵管内で授精するのと同じことが起こります。この受精卵を子宮の中に移植することで妊娠することが出来ます。
通常の体外受精で受精しない場合には、顕微授精もあります。これは、顕微鏡で観察しながら細い針に1個の精子を吸引し、1個の卵子の細胞質内に注入する方法です。精子の数が少ない方や、精子の運動率が低い方に有効な方法です。年齢にもよりますが、体外受精による妊娠率は、1回当り3045%です。45回行えば8割ぐらいの方は妊娠できます。体外受精は保険適用外でしたので、1回当り2060万円かかります。しかし令和44月より、人工授精等の「一般不妊治療」、体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」(高度生殖医療)について、保険適用されることになりました。また所得によっては、国からの補助や独自の補助金制度を実施している自治体も多くあります。

通院の頻度についてですが、タイミング法や人工授精の場合は排卵日の前後に集中して23回の通院の必要があります。体外受精の場合は注射を打つ必要もありますので、月に45回の通院が必要です。

最後になりますが、卵子の老化との戦いで不妊治療に取り組むには、一定の費用の支出を覚悟しなければならないわけです。
もう一つ知っておくべきは、不妊を招くリスク要因は年齢だけではないということです。その第一は喫煙です。卵巣機能を低下させたり、閉経を早めたりします。妊娠率やARTの成功率にもマイナスの影響があります。肥満や過度なダイエットも、ホルモンバランスを崩して月経異常や不妊を招きます。このほかにも、糖尿病などの生活習慣病や、感染症、飲酒などにも注意が必要です。
現在の晩婚化時代に在っては、結婚してから妊娠について考えるのでは遅すぎるといえます。できれば20代のうちから、遅くとも30代前半には妊娠・出産についての正しい情報を収集して、悔いのないライフプランを築いて行くべきではないでしょうか。

妊娠・出産の適齢期

妊娠・出産の適齢期

21世紀の最先端医療のひとつ、高度生殖医療の一般化で、子どもを産むための「不妊治療」の選択肢の幅は拡大しており、配偶者間の体外受精は広く一般化しています。また卵子提供プログラムや代理出産プログラム、着床前遺伝子診断などは日本国内ではまだ一般的には認可されていないものの、米国や欧州をはじめとした国々では、一般不妊治療の選択肢の一つとして広く行われています。
そのような究極の新しい選択肢があることを念頭に置いたとしても、女性がまず望むのは、やはり自分の卵子と自分の子宮で妊娠・出産を行うことです。その原点に戻って、まず何を知っておかなければならないかを考えてみましょう。

女性の妊娠・出産には適齢期があります。医学が進歩した現在でも、卵子の老化問題、妊娠合併症の問題などや我々が置かれている現代の社会を考えると、20代が最も適していると考えられ、遅くとも35歳くらいまでを適齢期と言っています。
しかし身体的に一番妊娠しやすいのは、10代の終わり頃と言えます。20代を経て、30代に入ると、加齢とともに女性が自然に妊娠する可能性は少しずつ低下し、35歳からは急激に下がると考えられています。現代の社会は10代で出産するのは厳しい世の中になっています。社会的にも精神的にも「大人」になって子供を育てる責任をきちんと遂行できるのは、年齢がもう少し高くなってからです。現代の社会では、女性の社会進出や晩婚化などライフスタイルの変化によって、30代になってから出産を考える女性が極めて多くなっており、40代になってから初めてそのことを考える女性もいるのが現実です。その年代になってみると、身体の方は残念ながら生殖力が衰えてしまっているという生物学上の事実にぶつかってしまい、出産にも、流早産の増加、異常分娩や分娩時出血多量など、さまざまなリスクが上昇していきます。
不妊治療に携わっている生殖医療の専門家は、この身体的生殖力のピークと、精神的・社会的な立場から親となる準備ができる年代との間のギャップを埋めるために存在しているのです。

平均寿命が今よりずっと短かった昔は、女性の多くは10代で結婚し、妊娠・出産する場合がほとんどでした。第2次世界大戦後の日本では、20代前半で結婚し初産に至るケースが一般的でした。しかし今は、女性の社会的地位も更に向上し、高学歴で、キャリアに専念する女性も多い時代になっています。人生の自由な選択肢がある中で、だんだんと結婚年齢が上がり、妊娠・出産の年齢も高くなってきています。
しかし時代遅れのような10代での妊娠・出産が、人間という動物の生物学上の観点からは一番妥当であるという事実は理解しておく必要があります。現実に目を向けると、10代という年齢では、まだ社会的には「学生」という身分が多いので、この年齢で妊娠をしてしまった場合に、中絶という選択を選ぶ女性も少なくないというのも事実です。豊かな現在の日本では、結婚を急がなくても自分が選択したライフスタイルを楽しむことができ、晩婚化・非婚化進んでいます。その結果、いつの間にか生物学上の「妊娠適齢期」を逃してしまっているケースが増えているのです。豊かになってきたライフスタイルは、そう簡単に放棄できません。自分が選んだ仕事や趣味を犠牲にするという選択も簡単にできるものではありません。しかし、「いったん失った生殖力は戻ってこない」という曲げられない事実は厳然と存在しています。いつか漠然と「自分は子どもを産むだろう」と考えているならば、ここで一度、「生物学上の真実」を知っておくことは大切なことです。

あなたの体内時計は刻一刻と時間を刻んでいます。つまり、齢を重ねるごとに妊娠のタイムリミットは迫っているのです。「いつまで妊娠できるか?」という質問には、あらゆるケースが考えられるため、一言では答えられません。
しかし、統計や生殖医療、出産数などの数値を見てみると、個人差はあるものの、一般的には、
40代に入ると自己卵子では妊娠しにくくなり
40代に入ると自己卵子では妊娠がいったん成立しても流産率が高くなり
40代半ばになると自己卵子での妊娠の可能性はほとんどなくなる
といった事実が挙げられます。
勿論個人差はありますので、あくまでも「一般的な目安」と考えて下さい。自己卵子による妊娠は、「45歳」という年齢が上限であると考えておくのがよさそうです。50代でほとんどの女性が閉経しますが、多くの女性は、40代のどこかで生理が不順になっていき、次第に閉経に向かいます。ここで理解しておいて頂きたいのは、「生理があるうちは妊娠できる」というのは必ずしも真実ではないということです。


年齢と妊娠率の統計を見てみると、年齢と妊娠率との間には深い関りがあることが分かります。先進国では世界中で初産の高齢化が進んでおり、アメリカではおよそ20%の女性が35歳以上で第1子を出産しているといわれています。ここで理解しておかなければならないのは、30歳を超えると、毎年5%ぐらいの割合で妊娠できる確率が減少していくといわれていることです。その現象の割合は40代になると更に激しくなり、齢と共に妊娠率が落ちるだけでなく、妊娠したとしても流産してしまう確率も増えてゆくのです。この理由は何なのでしょうか。身体が齢をとって、衰えていくからでしょうか。それは、全体的な体の衰えというよりも、具体的・直接的に妊娠できる力を減らしていくのは、「卵子の生命力」なのです。医学的な言葉で言うと「卵巣機能低下」が加齢とともにどの女性にも起こるからなのです。
日本の女性の平均寿命は世界一といわれていますが、そんな現在でも、その女性がどんなに健康で、食生活などにも気を付けた万全の生活を送っていたとしても、卵子年齢の老化だけは、人生の中盤で起こってしまう、というのが悲しく厳しい現実なのです。

女性は誰でも母親の胎内にいるうちに、自分が持ち得る卵子を与えられ、自分が持ち得るだけの卵子を持って生まれてきます。そのため、それらの卵子は、人間の身体の他の細胞のように新しいものがどんどん作られてくるのではなく、生まれ持ってきた原始卵胞は、時間とともに老化していきます。通常女性は、誕生した時にそれぞれの卵巣に、約300万個、両方合わせ約600万個の原始卵胞(卵子の元になる細胞)を持って生まれてきます。それが10代で初潮を迎える頃には相当数が既に消滅している状態になっていて、約10分の1ぐらい程度になっているといわれています。初潮を迎えてから、毎月の生理のたびに一定数の卵子が排出され、失われてゆきます。排卵をするのが1個の卵子だったとしても、毎月、両方の卵巣の中に複数の卵子が現れ、その中から普通は1個だけが大きくなり、排卵するのです。そして、残っている卵子は刻一刻と老化していく、というのが卵子の状況です。すべての卵子が排出されてしまった時点で閉経となるわけです。ただし、最後の卵子が、「妊娠可能」な、つまり胎児として育っていき、出産に至ることができるような受精卵を作れる卵子であるとは限りません。
一方精子の場合は、卵子と大きな違いがあります。それは、「精子は老化しない、しかし卵子は老化する」ということです。
精子というのは、精母細胞という細胞から生まれ、2ヶ月で精子になります。つまり毎日新しい精子が男性の体の中で作られているということです。ただし加齢により、機能は少しづつ低下していきます。

体外受精の現場で分かっていることとして、「卵子が老化」するとともに、その卵子が受精してできた受精卵(胚)には、染色体異常が頻繁に見られるようになります。この染色体異常のある受精卵、というのが流産に終わってしまうケースの約半数の原因であると考えられています。卵子がまだ若い頃、つまりまだ妊娠率が高いとされている20代の頃は、卵子もまだ元気で生命力があります。つまり、受精卵に染色体異常が起こる確率が低く、正常な受精卵だからこそ一旦妊娠すると流産率も低く、無事出産できる確率も高くなるのです。目安として考えていただきたい大雑把な数字ですが、20代での流産率は1回の妊娠に対しておよそ1012%と考えられていますが、それが40代に入ると、なんと折角妊娠しても50%ほどが流産に終わってしまうという現実があります。これは、子宮が老化したとか、身体が衰えたとか、ご夫婦の遺伝子が適合しないとか、そういった問題より、唯一大きな原因として挙げられるのが、この「卵子の生命力が落ちている=染色体異常が起こっている」という理由でのことなのです。もちろん、染色体異常が原因で着床(妊娠)の現象も起こらず、「妊娠不成立」の結果も齢と共に高くなる、というのが事実です。

妊娠を考える女性に向けてのガイドブックを出版した、米国人研究者のインタビュー記事があります。それによると、自然に妊娠できる確率は年齢とともにゆっくりと低くなっていき、様々な研究を踏まえると、自然な妊娠のタイムリミットの目安は、40歳ぐらいとなります。「加齢」がタイムリミットの要因として高まるのは、41歳ぐらいからと書かれてありました。
体外受精の調査結果の場合でも、染色体が正常である比率は、38歳まではほとんど変わらず、その後も正常値の減少は少しずつなので、41歳になるまでは深刻に考えなくてよいと言われています。
別の体外受精における研究で、胎芽(妊娠8週目までの個体)に関するデータでは、30歳の女性の胎芽のうち、75%の胎芽が正常、一方39歳では、正常な胎芽は47%でした。その後41歳では31%、42歳では25%、43歳では17%と一気に落ち始めます。この段階になると、体外受精でも年齢をかなり考慮する必要が出てきます。

赤ちゃんを授かるための選択肢

赤ちゃんを授かるための選択肢

一般的には、健康で妊娠適齢期の女性の場合、避妊を止め排卵のタイミングに丁度合えば、1年ほどで妊娠すると言われています。このような自然妊娠の確率は7080%になります。ここでいうところの妊娠適齢期とは、32歳ぐらいまでの女性のことで、この自然妊娠率にもっとも影響を与えるのは年齢です。つまり卵子の年齢が自然妊娠率を左右してるとも言えます。
女性の社会進出が進み、結婚する年齢が上がることで、不妊の原因の第一は、卵子の老化となっています。これは、日本だけでなく多くの先進国で問題となっている少子化の原因にも繋がっています。

自然に妊娠できなかった場合、妊娠適齢期の方なら誰でもすぐにできる赤ちゃんを授かる方法は、タイミング法です。妊娠適齢期の女性なら、「基礎体温の測定」や「排卵検査キット」で排卵時期を把握し、タイミングよく性交渉を行えば、80%ほどの確率で妊娠することが可能です。これがタイミング法と言われている計画妊娠です。月経周期が28日の場合、月経開始日からおよそ14日目に排卵が起こります。しかし月経周期がほぼ安定している人でも、その時の体調などにより決まった間隔で起こるわけではありません。また排卵された卵子が受精できる時間は限られているため、妊娠の確率を高めるために排卵時期を予測することが必要になってきます。自然妊娠やタイミング法を試みても1年以上妊娠できなかった場合や、すでに妊娠適齢期を過ぎている場合、特に40歳を過ぎている場合は、すぐにご夫婦で産婦人科や不妊治療専門医を受診して下さい。近年、不妊の原因の約40%が男性側にあると言われており、必ずご夫婦で検査を受けることをお勧めします。

自然妊娠そして計画妊娠にトライされて1年以上妊娠できなかった場合や、すでに妊娠適齢期を過ぎている場合でも、生殖補助医療がすぐに必要という事ではなく、ご夫婦で検査を受け、疾患が見つかった場合は、その治療を行う事で妊娠することもあります。検査では、ホルモンの乱れ、子宮内膜症、子宮筋腫が見つかることもあり、治療や手術を行う必要があれば、すぐに進めて下さい。
また近年では、ストレス等の影響で、妊娠できないご夫婦の内、約40%が男性側に問題があるとの結果が出ています。精子の検査で、無精子症、精子の運動率や奇形などの異常が見つかることも多々あります。
女性の社会進出すすみ、結婚する年齢が上がることで、不妊の原因となるのは、女性の年齢、つまり卵子の老化が大きく影響していると言われています。
検査後の疾患の治療、その後の生殖補助医療への取り組みが大事になってきます。

生殖補助医療技術の1つである人工授精(AIH)とは、洗浄濃縮した選りすぐりの精子を、排卵のタイミングで女性の膣内から注入する不妊治療です。この人工授精には、基礎体温などで排卵のタイミングを見て行う場合と、より積極的に排卵誘発剤などを使い、卵胞の発育状態を確認しながら、排卵のタイミングを薬剤でコントロールしながら行う場合の2通りがあります。
人工授精の利点としては、使用する薬剤を最小限に抑えることができるため、体への負担が少なく、費用も比較的安価に抑えることができます。反面考慮点としては、受精卵の数のコントロールができないため、多胎妊娠の危険性があります。
また第三者の精子ドナーから精子の提供を受けて行う人工授精(AID)もあります。これは、男性側が無精子症などの場合に行われます。しかし顕微授精が増えるのに従い、この方法は減少しています。

生殖補助医療(ART)と呼ばれる技術の一つに体外受精があります。体外受精の歴史は長く、1978年世界初の体外受精そして胚移植による妊娠・分娩の成功以来約40年間になり、現在では約18人に1人の新生児が体外受精で誕生した計算になります。女性の卵巣から採取した卵子と男性から採取した精子を培養液の中で混ぜ合わせ、女性の体内で起こっていた受精を体外で行い、できた受精卵を子宮に移植する医療技術です。
体外受精の利点としては、卵子や受精卵の状態を詳細に管理できるため、妊娠率が高くなることです。一方で、排卵誘発剤などの薬剤の投与や採卵などで女性の体への負担が大きくなり、同時に医療費も高くなります。しかし晩婚化を背景に不妊に悩む夫婦が増える中、治療費の一部公費負担制度を利用して治療を受ける人が増加しています。
尚、体外受精は、「婚姻している夫婦に限る」との日本産婦人科学会の指針により、日本国内ではドナーからの精子や卵子の提供による体外受精はできません。

生殖補助医療の中から、日本でできる最後の選択肢として、顕微授精を取り上げます。顕微授精は、男性不妊に対応するために開発された画期的な治療法で、体外受精の一つです。
精子に何かしらの異常がある、たとえば数が少ない、奇形が多い、運動率が低いなどの場合、通常の体外受精では、受精まで至らないことが多く、その解決策としてできたのが顕微授精です。正常な精子を1つ、成熟した卵子内に挿入する事で受精させる医療技術のことです。
最近では、精子に問題がない場合でも、受精率を高めるため用いられることもあります。またさらに妊娠率を高めるため、できた胚を一度凍結し、着床しやすいように子宮の状態を整えてから移植を行う、凍結胚移植との組み合わせも増えてきました。顕微授精の利点としては、精子検査の数値が悪い場合であっても、受精に至る確率が高まります。一方で、胚培養士の技術に依存することが多く、費用も高額になります。

顕微授精は、本来は男性不妊のために開発された技術であると書きましたが、重症の男性不妊の場合行われる精巣上体精子回収法(MESA)と精巣精子回収法(TESE)があります。これは、射精できない(射精障害)または無精子症(射精後の精液に精子が見つからない)の場合に、直接睾丸から精子を採取する方法として開発された生殖補助医療技術です。
男性から精巣上体精子回収法や精巣精子回収法で精子を採取し、同時に女性の卵巣から卵子を採取するといった一連の流れの中で、得られた精子と卵子で顕微授精を行い、その後子宮の状態を整え、得られた受精卵を胚移植することで妊娠を目指す方法です。しかしMESATESEが必要なケースでは、受精可能な精子が採取できなかったり、採取できても正常な精子の数が少なかったりすることも十分考えられます。この方法の利点としては、直接睾丸から行うことで、精子を採取できる可能性が高まることです。一方で、最新の医療技術に依存するため、費用は高額になります。

不妊の原因で、このような男性側のみにある場合が2025%、男性と女性の両者にある場合は同じく2025%、したがって全体の約半数が男性側に何かしらの原因があるという事になります。一方女性側のみにある場合は、約40%と言われています。お子さんができない原因にはいろいろあります。はっきりした原因がある場合は、これに対応する必要がありますが、原因がはっきりしない場合も多数あります。その多くの場合、年齢が高いというだけで、はっきりした原因がわからないことも事実です。具体的な不妊の原因には、排卵障害、卵管障害、着床障害などの女性側の原因と、男性側の障害があります。夫婦共に問題がなく、タイミング指導から人工授精まで行っても妊娠に至らない場合は、機能性不妊と定義づけられます。簡単に言い変えれば、原因不明の状態の事です。
治療のステップアップとして体外受精そして顕微授精と書いてきましたが、ご夫婦の年齢が40歳以上の場合、次の一歩も視野に入れる必要があります。日本の生殖医療は世界水準と言えますが、まだ国内では制限されたり、許可されていない治療手段が海外にはあり、それらも赤ちゃんを授かるための選択肢です。

エンジェルバンクでは、不妊治療の次の一歩として、海外で行う卵子提供プログラムや代理母出産プログラムのご紹介やコーディネートを行っています。オンラインでの無料の個人面談を実施していますので、お問い合わせよりお申し込み下さい。 

医療機関

医療機関の違い

体外受精や顕微授精などの高度生殖医療に於ける妊娠率は、医療機関によって大きくばらついていますが、その要因を考えてみましょう。
高度生殖医療は、1980年代までは大学病院などの医療設備や入院を要する病棟での医療でした。また採卵なども手術室で行われるのが一般的でした。しかし、1990年代に入ると大学病院などで経験を積んだ医師達が独立し、自らのクリニックを開設するようになって行きました。これが可能になったのは経膣超音波検査の普及が大きな要因でした。これによって、体外受精の最も外科的なプロセスである採卵が、これまでの手術室などから、外来の処置室で行うことができるようになりました。以降、高度生殖医療を行う医療機関の数は増加の一途をたどっています。この増加分のほとんどが、いわゆる開業医が占めていることが特徴的な事実です。
高度生殖医療の中心が大病院から個人の医療機関にシフトしたことによって、医療技術のスキルやノウハウが、個人の医療機関側に蓄積され、各施設が独自の工夫を加えて治療が行われています。体外受精のプロセスは、大まかに5つに分けて考えることができますが、どのプロセスに於いても、細部については医療機関の間で異なっているのです。

体外受精は、5つのプロセスのどの段階においても、不具合があっては妊娠が成立しません。
また妊娠を成立させるためには、2つの大きな力が働きます。一つ目は、言うまでもなく医師が正しく診断し、治療のスケジュールを組み立て、薬などを投与するといった医師側の力、すなわち 「治療力」 です。 もう一つは、通常の治療であれば看護師が中心となる、「看護力」 ですが、高度生殖医療においては、もう一つの大きな力は看護力ではなく 「ラボ力」 になります。ここが他の医療と決定的に違うところです。ラボ力のラボとは、培養室のことです。卵子を培養したり、精子を調整したり、顕微授精を行ったりする人達が活躍するラボの力が大変重要になります。培養室で働いているのは、主にエンブリオロジスト(胚培養士)と呼ばれる人達です。こうした人達の技術水準、スキルが体外受精の成否を決定づけていると言えます。農学部や獣医学部などで学んだ人が多いのですが、卵子や精子を取り扱うプロの集団です。体外受精の成績の優秀な施設ほど、優秀なエンブリオロジストが揃っています。
体外受精に於いて妊娠を成立させるのは、医師の治療力とエンブリオロジストのラボ力との総合力だと言えます。ラボで働くエンブリオロジストは、一般的には表に出てきませんのでその実力の評価は難しいのですが、彼らは培養器の精度管理なども行っています。培養器の中の安定度が、体外受精の結果に大きく影響するであろうことは想像に難くありません。一般的な傾向として、体外受精は、それを行う件数が多い施設ほど妊娠率が高いという傾向がみられ、その理由のひとつが培養器の安定性だと考えられます。実際の体外受精の培養では、二酸化炭素や窒素、酸素といった気体を一定の割合で培養器内に流しますが、培養器のオン・オフを繰り返しているとなかなか安定しません。件数が多いと常時稼働させた状態にすることができ安定度が増すのです。もちろん、体外受精の件数が多いことだけが、単純に妊娠率に反映されているわけではありません。自然周期採卵の1個の卵子を体外受精させ、子宮に戻し、妊娠に至るということには、極めて高い技術力が必要なのです。

医療機関側の傾向として、一度来院した患者さんをなかなか手放さない「囲い込み」という問題があります。
技術力や得意な治療法は、医療機関によって異なります。不妊治療の世界での技術は医療機関の企業秘密のようなことも多くあり、一般の人には判断がつかないでしょう。不妊治療を始めると、多くの場合、タイミング法から人工授精、体外受精までを同じ医療機関で行っています。しかしタイミング法を行う医療機関が、必ずしも体外受精のスペシャリストだとは限りません。 同じ医療機関ですべてを受ける必要は全くありません。小さいクリニックでは、腹腔鏡のような治療を行うことができないので、必要な場合でも敢えてそれをしないということが現実に起きています。
不妊治療がビジネス化している今の日本では、しばしばみられる現象と言えます。
 

日本と世界の違い

日本と世界の違い(1)

日本は、不妊治療施設の数が世界で最も多い国です。不妊治療をしている病院やクリニックの数は、約600ヵ所と言われています。しかし体外受精の実施件数では、日本より施設数が少ない米国よりやや多いものの、治療による出産率では、米国の4分の1しかありません。
理由として1番に考えられるのが、患者の年齢です。日本では、不妊治療を行っている患者数の30%以上が40歳代で、世界で最も年齢構成が高いと言われています。世界の平均は、40歳以上で15~18%位です。つまり不妊治療での妊娠率が高い国は、年齢が若い段階から不妊治療に取り組んでいると言えます。
2番目には、不妊治療のために自己負担する費用です。日本では一般的に、一部を除いて自己負担となっており、治療にかかる費用の平均は100万~200万円ぐらいと言われています。一方海外では、フランスやスウェーデンなどは健康保険が適用され、自己負担はありません。日本でも、国による公的支援制度や都道府県や市町村など自治体独自の助成金制度により支援が行われ、自己負担の軽減が図られています。
3番目として、体外受精の違いも見逃せません。海外では、第三者の卵子提供による体外受精を許可している国が多くあります。最近は、卵子の老化の話が日本でもよく取り上げられていますが、第三者の若い卵子で体外受精を行えば、妊娠率は高まり、出産率も高くなると考えられます。しかし残念なことに日本では、一部の例外を除いて、原則禁止となっています。

次に不妊症の定義の違いを確認してみましょう。
日本生殖医学会によると、不妊症とは、「何らかの治療をしないと、それ以降自然に妊娠する可能性がほとんどない状態」を指し、健康な夫婦が一定期間、避妊せずにセックスをしても妊娠しないことを言っています。ここでいっている一定期間は、日本や世界保健機関(WHO)では、2年間と定めていますが、アメリカでは、この期間を1年間としています。それではなぜアメリカは、この期間を世界的な標準の半分にしているのでしょうか。それは高齢出産が増えたからです。若い夫婦ほど妊娠率は高く、夫婦が高齢になれば妊娠率は低くなります。そして高齢になればなるほど、治療に要する期間は長くなり、しかも費用も高くなります。つまりアメリカは、不妊症と判断するための期間を短くし、なるべく早く診察そして治療を行い、高齢出産を減らそうとしているのです。
ART
(生殖補助医療)の国際監査委員会(ICMART)によると、日本は、不妊治療による出産率が米国の4分の1というデータがあります。フランスなど不妊治療での妊娠率の高い国では、年齢の早い段階で、治療に取り組んでいると言われています。現在日本では、結婚している夫婦の6組に1組が不妊治療や検査を受けていると言われています。日本産科婦人科学会によると、2017年に体外受精によって生まれた子供の数は54,110人で、国内全体のおよそ16分の1にあたります。1983年に東北大で国内初の体外受精児が生まれてから合計で59万人超えたことになります。
世界でみると、イギリスのロバート・エドワーズ博士が世界初の体外受精を成功させた1978年からの累計で、約500万人の体外受精児が誕生していると世界保健機関(WHO)は発表しています。また欧米などの海外では、既に許可されている「第三者からの卵子提供による体外受精」は日本では未だに原則禁止になっています。
しかしこれまでに判っているもので、国内で卵子を提供されての出産が約100人、海外で卵子を提供を受けての出産が約3,000人と、推定されています。このような日本での状況を踏まえ、第三者からの卵子提供を受けての体外受精について、日本の伝統や文化も考慮し、広く社会的コンセンサスを形成するため、国民的議論と法整備も含めた制度設計が必要と思われます。

アメリカ疾病対策予防センター(CDC)が発表した2012年の年次報告によると、1年間に行われた体外受精は176,275サイクルで、65,179人の子供が生まれています。
一方日本では、2012年に体外受精で37,953人が生まれており、アメリカのおよそ2分の1になります。
SART
2012年の年次報告によると、第三者の卵子提供による体外受精(胚移植)は、16,858回になります。内訳は、新鮮胚移植が9,250回で平均出産率が56.6%、融解胚移植が7,608回で平均出産率が37.2%になります。胚移植全体でみれば出産率が46.9%で、およそ2人に1人の割合で出産に至っています。したがって1年間で約8,000人の子供が生まれたという事になります。同じ報告書によると、4142歳の出産率は11.8%42歳以上の出産率は3.9% という統計も出ています。
この発表を行ったSARTとは、「体外受精や生殖補助医療を専門に働く医師の集まり」で、「患者が最良の医療を受けられるように、生殖補助医療の水準を確立し維持すること」を目的として設立された米国の民間組織で、全米で379の医療機関が加盟しています。この組織の役割は、生殖補助医療のガイドラインや手引きを提供し、施設における妊娠率や多胎妊娠など、提出される報告書のレビューを行います。またガイドラインを尊守しているかどうか、監査をする役割も担っています。
米国では、約15%のカップルが不妊に悩んでいると言われています。
マーケティング会社の調査によるとその規模は、2008年の段階で、既に約40億ドルと推計される巨大マーケットになっています。もっとも多いのはART(体外受精)で、2012年に米国で行われたARTの治療件数は、176,275サイクルで、65,179人の子供が誕生しています。そして米国では、精子や卵子を提供する事がビジネスとして成り立っています。
ある精子バンクの顧客は、年間1万~1万2000人で、毎日平均で100件の精子を出荷、毎年平均で25003000人の子供が産まれています。大手の精子バンクでは、精子提供にかかる費用は600ドルで、ドナーには100ドル/1回が支払われています。また卵子の取引も盛んで、2009年の体外受精のうち、約12%が第三者からの卵子提供で行われていました。
ある調査会社によると、25%の広告が卵子ドナーへ1万ドル以上の対価を提示しており、一般的には5000ドル以上がドナーに支払われています。米国では、一般的な卵子提供による体外受精の費用は、35000ドル以上になります。

日本と世界の違い(2)

ヨーロッパ諸国と日本の違いについてみてみます。
まずフランスでは、男女が43歳未満で子供ができないことは「疾病」と考えられています。そのため不妊治療にも保険が適用され、ほとんど無料で治療が受けられます。フランスは外国人を除き、国民全員が国民健康保険に加入しています。専業主婦は夫の保険に加入し、仕事をしていない未婚女性もCMU(普遍的疾病給付)に加入するため、医療費はほとんど無料です。その中のAMP(生殖補助医療)保険は、43歳未満であれば、人工授精6回、体外受精4回までは100%保険でカバーされます。また卵子提供であれ、精子提供であれ、不妊治療と呼ばれるものにはすべて保険が適用されています。しかし保険が適用されるのは43歳未満で、それ以降は日本と同じように自己負担での治療になります。つまりそれは、43歳以上は「疾病ではなく、自然な老化による不妊」と判断されているのです。
不妊治療(体外受精)を行う平均年齢が最も高い国の一つが日本です。40歳以上が全体の30%を超えています。一方フランスは、40歳以上が14%で、30~34歳が最も多く34%になります。これは健康保険が適用される年齢を43歳未満にすることで、早い段階で治療に取り組ませ、体外受精の妊娠率を高めているということでもあります。フランスでは、不妊治療を受けられる人は、「不妊症である」か「子供に遺伝病を与える、または配偶者にウィルス性の疾病を与える可能性がある」と診断された「カップル」と定義されています。この「カップル」には、婚姻関係にある夫婦に限らず、「事実婚」や「恋人」もこの範囲に入れられています。また不妊治療を受診する場合、「男女そろっての診察」が法的に義務付けられています。なぜなら、現在、男性側に不妊の原因がある場合が、全体の40%を占めており、それは精子の数が30年前に比べ約2分の1になっているからです。この原因として、環境やストレス、そして食べ物の影響が考えられています。
フランスは、公的な様々な施策により、合計特殊出産率(2013年度)が2.01と、EC先進国の中でも最高値にあります。
一方日本は、1970年代後半から減少が続き、2005年に1.26まで落ちこみました。その後は緩やかに回復し、2015年には1.46と回復傾向にありますが、他の先進国と比較しても最低値にあります。出生率がこのまま1.4程度で低迷すると、約50年後には人口が今より3割少ない8千万人台半ばにまで落ち込むと推計されています。このような出生率の低下による
少子化が続き、同時に高齢者人口が増える高齢化、つまり少子高齢化による労働人口の減少は、年金や医療など社会保障の弱体化や経済の低迷につながり、社会に様々な問題をもたらすと言われています。

ヨーロッパ諸国で日本と同様に卵子提供による不妊治療を禁止している国は、イタリア、ドイツ、オーストリア、スイスとごくわずかな国です。その他の多くの国では、一定の規制の下にそれを認めています。
スペインは、卵子提供による不妊治療を認めている国の中でも高い不妊治療技術を持つと評価されています。またスペインは、不妊治療に関し、ほとんど法的規制がなく、禁止されているのは、「男女の産み分け」と「代理出産」くらいです。スペインが特徴的なのは、婚姻関係がなくても、事実婚のカップルだったり、単身女性だったり、同性愛女性だったりでも、治療を受けることができる点です。この国は、卵子提供自体が合法であるため、若く健康なドナーの卵子であふれています。その数は、2011年に約11万個で、欧州全体の40%を占めています。 また凍結されている受精卵(胚)は、スペイン国内に35万個も眠っているとも言われています。
スペインには、年間14000人もの外国人女性が不妊治療を受診するためにやってきます。その内の70%が卵子提供による体外受精と言われています。多くがヨーロッパ諸国からの患者ですが、あるクリニックでは、2012年に50人、2013年には55人の患者が卵子提供による体外受精のために、はるばる日本からやってきました。しかしスペインには、日本人の卵子ドナーの数は少なく、バルセロナにある日本食レストランや語学学校には、日本人卵子ドナーの募集広告が貼ってあります。
このクリニックが行った「卵子提供による体外受精」は年間約3000サイクルで、ヨーロッパ全体の約10%に相当します。またこの3000サイクルの中での、妊娠率は61%と公表されています。
スペインに不妊治療に来る大半の患者は、母国で成功しなかった比較的高齢な女性が多く、なかには50歳以上の患者も多数おり、日本人も例外ではありません。スペインでは、卵子を提供する事、受ける事、保存することまで合法的に自由に行えます。この自由なルールが、スペインの不妊治療を発展させた特徴だと言えます。

人口950万人のスウェーデンでは、年間17000サイクルの体外受精が行われています。2011年に体外受精で生まれた子供は、約4000人になり、そのうち卵子や精子提供で生まれた子供は約200人になります。女性は39歳、男性は54歳までの夫婦かカップルであれば、「第一子を産むまで」は保険により全費用が賄えます。単身女性への不妊治療や代理出産は法律により許可されていません。精子提供による不妊治療は、男女のカップルだけのためにあり、単身女性やレズビアン女性は例外となるため、彼女たちの多くは、隣国のデンマークに行って不妊治療を受けています。一般的にスウェーデンでは、他国に比べ若いうちから不妊治療を受ける傾向にあります。それは子供の頃からの教育により、どうすれば妊娠できるのかや卵子が時と共に老化する事は、誰もが知っていることだからです。したがって卵子提供を必要とする患者は、それほど多くはありません。先進国で働く女性たちが、40歳を過ぎてから不妊治療を開始するような現実がこの国にはありません。どうしても卵子提供が必要で、しかも急いで治療を受けたい場合は、私立のクリニックが多数ある隣国のノルウェーに行って治療を行っています。

日本と世界の違い(3)

アジア諸国の中では、メディカルツーリズムとして不妊治療を積極的に進めている2つの国を紹介します。
タイといえば、居住している日本人の多さで知られています。在留届を出している在住者数64千人(2014年)、在留届を出していない滞在者も含めると、10万人以上が在タイしていると推定されます。そのため、日本人向けサービスが充実し、日本にいるのと変わらない生活ができるとも言われています。 また首都バンコクの病院では、日本の病院と同等の治療が受けられ、なかでも富裕層や外国人向けにサービスを提供する私立病院の中には、高級ホテル並みの施設や欧米の医療先進国で経験を積んだドクターを擁し、世界でもトップクラスの医療が受けられます。さらに日本人が安心して治療に専念できるサービスも充実し、日本語通訳が常駐する日本人専用窓口を設けて、各種相談にも対応できるようになっています。ここ数年、タイではメディカルツーリズムに国をあげて取り組んだ結果、世界レベルの医療を快適な環境で、しかもリーズナブルな価格で受けられ、さらに治療の合間には楽しい観光もできるとあって、医療目的で訪れる観光客が増え続けています。もちろん不妊治療においても、日本では受診できない治療が可能な上に、欧米で受診するより安価なため、患者数は増え続けていました。
メディカルツーリズムが充実したタイですが、2014年8月に2つの事件が国内外で
報道されました。一つは、オーストラリア人夫婦が行った代理出産で、双子の一人がダウン症だったため、引き取りを拒んだ事件がありました。もう一つは、日本人男性が、十数人の子供を異なる女性たちに代理出産させていた事件でした。この2つの事件は、日本でも大きく報道されましたが、これを契機にタイの不妊治療に関する法律は大きく変わることとなりました。
現在タイの病院やクリニックでは、新法によって以下の証明書の提出が必要となり、新たに規制を受ける不妊治療が規定されました。
まず不妊治療を受ける場合、公的な結婚証明書(日本人の場合は戸籍謄本)、パスポート、身分証明書の提出が必須となりました。
次に、代理出産、単身者の不妊治療、営利目的での卵子提供、男女の産み分け、精子・卵子・受精卵(胚)の輸出入などが禁止となりました。

タイと同様にマレーシアは、医療ツーリズム産業を経済発展のカギとして、外国からの医療ツーリストをさらに増やすための活動を展開しています。2010年以降、医療を目的にマレーシアを訪れる外国人の数は年々増え続け、保健省が実施した医療ツーリズム促進プログラムが成果を上げていることを物語っています。首都クアラルンプールには、最新の医療設備、ホテル並みの環境そして欧米や日本で学んだ優秀なドクターを擁した、世界でもBEST10に入る病院があり、外国人向けに不妊治療センターを持つ大病院も多くあります。その一方で、マレーシアはムスリムが多数派を占める多民族国家という側面を持っています。イスラム教では、婚姻関係にある夫婦の卵子と精子を使ったIVFのみが認められています。
数年前、国内で代理出産が増えているという報告を受けマレーシアのイスラム宗教局は、イスラム教は代理出産を禁じるというファトワーを出しました。ファトワーとは、書面において発した
イスラム法学上の勧告のことで、ファトワー自体には法的な拘束力はありませんが、心理面からイスラム教徒に多大な影響を及ぼすものです。
マレーシアでは現在、不妊治療に関しての法規制はありません。しかしARTに関するガイドラインを医師会が出しており、法的拘束力はないものの、医師は基本的にこのガイドラインに従うとされています。マレーシアでは婚姻関係や伝統的な家族観を重んじる傾向が現在でも強く、出産に第三者が関わることに対しては慎重です。ARTの使用に関しては、夫の精子と妻の卵子を使い、妻が出産する、という使い方が原則とされています。ガイドラインの中には、PGD使用の制約も盛り込まれ、遺伝疾患を排除する目的以外でのPGDの使用を禁止しています。これにより、マレーシアでもfamily balancingを理由にPGDを受けることは難しくなりました。
またマレーシアでは代理出産が増えていますが、法律上、代理出産に関する民事の項目はなく、法的状況はあいまいであるといえます。法律は代理出産を想定しておらず、生んだ女性が「母」となる原則に基づいているため、こうした契約が複雑な問題に発展する可能性があります。ガイドラインにより代理出産を行う病院は少ないのですが、卵子提供に関しては、多くの病院が治療の一環として行っており実績も多数あります。

「妊娠しよう」と考えた時に

「妊娠しよう」と考えた時に

妊娠しようという気持ちの準備ができたなら、将来の母体と胎児を守るために済ませておきたい準備策について考えてみましょう。
最初は風疹と水痘水疱瘡への免疫についてです。
あなたはこどもの頃「風疹」や「水疱瘡」にかかったことがありますか? 
あるいは学校などでこれらに対する予防接種をうけたことはありますか?

覚えていない方は、お母様に訊いてみましょう。お母様も不確かな場合は、血液検査で、これらの伝染病に対する免疫があるかどうか確認することをお勧めします。もし血液検査で免疫がない、ということが分かったら、ワクチンを受けましょう。こどもの頃にワクチンを受けた場合でも、大人になるまでの長い年月の中で、免疫が薄れてしまい、血液検査をしてみると、実は「絶対に抗体がある」とは言えないような低い数値になっていることもあります。出来れば、皆さんが血液検査で調べた方が好いのです。妊娠中にこのようなウイルス性感染症に感染すると、胎児の先天性異常や重度の肺炎などの母体の合併症に発展することがあります。せっかく妊娠しても、そのようなことになっては大変ですので、できるだけのことは準備しておきましょう。免疫がない場合、あるいは免疫を表す数値が低い場合は、ワクチンを受けることになりますが、このワクチンは生ワクチンです。したがって、ワクチンを受けた直後は、逆に胎児にはよくありません。ワクチンを受けたら数か月後に血液検査を受けて抗体ができていることを確認して下さい。ワクチン接種後、どれくらいの期間妊娠しない方が好いかについては医師に確認して下さい。 通常は24か月ぐらいです。その間は避妊して下さい。

まだ妊娠もしていないのに、妊婦用ビタミン剤なんて・・・と思われるかもしれませんが、積極的に妊娠をしようと思っている時、妊娠成立前から服用を始めても全く問題の無いものです。単に妊婦用ビタミンというのではなく、キーポイントは「葉酸」です。これが含まれていることによって、妊娠中の胎児の脳の発達時に、脳神経管における異常発生を減少させることが分かっています。健康のためにサプリメントを服用されているのなら、これも一つの手段かもしれません。ただ、妊婦用のビタミン剤の中には、鉄分が余分に含まれているものも多く、それで吐き気を催してしまう方も少なくありません。吐き気がするようであれば、そして鉄分の含有量が少なくとも大丈夫な場合は、含有量が低めのものを選んで試してみましょう。但し、貧血気味の方の場合はきちんと担当医と相談をして、必要な量を摂取して下さい。

ご存知の方も多いと思いますが、妊娠しているのを知らずにレントゲンを受けてしまうと、胎児に悪影響がある場合があります。今は歯医者さんでも、他の医療施設でも、女性には「妊娠中ではありませんか?」と聞いてくれるようです。しかし、もし聞かれなくても、少しでも妊娠の可能性がある場合は、「もしかしたらそうである可能性もあるので・・・」と、適切な準備(例えばX線を通さないベストをかけてもらうなど)をしてもらって下さい。不必要なレントゲンは受けない、あるいはレントゲンが必要な検査や治療は、妊娠を試みる前にすべて終わらせてしまう、というのが好いかもしれません。

本来は、ブライダルチェックのような検診で、あらゆる詳細な検査を受けるのが望ましいのですが、そのような検査を受けるチャンスが無い場合、どうしても時間を作れない場合、妊娠前に絶対行って頂きたいのは、子宮頸がんと乳がんの検査です。 どちらも初期発見があると完治できる可能性がありますが、進行した状態で診断されてしまうと、もし妊娠している場合、その妊娠、つまり赤ちゃん自体を諦めるという悲劇はおろか、自分自身の命さえも危険にさらされてしまうことになります。子宮頸がんの場合、進行してしまうと、子宮を全摘出しなければならないこと、さらに転移していると卵巣も一緒に摘出、ということにもなりかねません。それでも命が助かればよいのですが、もちろん知らずに放置された状態だと、死にも至ります。発症時は自覚症状がまったくありませんから、定期的に検査を受ける以外、病気を知る手段はないのです。子宮頸がんと乳がんの検査は、できるだけ毎年1回受けて下さい。どんなに忙しくても、何があっても、それが初期発見の鍵となる真実なのですから。

婦人科検診のすすめ

既婚の女性ならともかく、独身女性にとって婦人科の門をくぐるというのは、かなり抵抗があると思います。日本の病院は大きな看板を出していますから、「婦人科」や「産婦人科」の門をくぐると、なぜか妙に周囲の目が気になり、入っていくところを見られたら、どんな噂をされるか分からないなどと考える女性が多いようです。しかしネガティブな先入観を捨て、「いつか子どもを産みたい」と漠然と考えている女性も、「子どもはいらない」と考えている女性も、自分自身の健康管理のために、勇気をもって「婦人科検診」を受けてみる、その第一ステップが重要です。
まったくの健康状態で、生理不順や他の月経関連の気になる点がない女性でも、まずは検診、生理不順があればなおさら検診を受けるのは早い方がよいでしょう。子宮頸がんや乳がんも、初期診断があれば完治する可能性の高い病気です。元気で長い人生を送るためにも定期的な健康診断で、このようながんの検診も受けるべきです。20代での子宮頸がん発症の診断が遅れて、「子宮全摘」という処置を受けざるを得なくなった女性がなんと多いことでしょうか。子宮頸がんの治療のために、化学療法や放射線治療を受けたことで、がんは完治したものの、卵巣機能を失ってしまう女性も多くいます。これらは、本当に悲劇としか言いようがありません。未然に防げるものならそれに越したことはない、というのは当然です。

一般婦人科検診のことを「ブライダルチェック」といった華やいだ名前で、女性の全般的な検診を行っている婦人科は少なくありません。「花嫁」というと、結婚が決まった女性が婦人科検診を受けておく、という印象がありますが、これはなにも結婚が決まったから受ける資格ができる、というものでは決してなく、同様の婦人科検診をどなたも20代でまず一度は受けておくべきです。あなたが30代以上の年齢の女性で、まだ一度も婦人科検診を受けたことがないならば、できるだけ早く検診を受けることをお勧めします。もちろん、結婚が決まっていたり、すでに結婚した後の女性でも、自分自身の「妊娠・出産力」を確認するためと健康のために、必ず受けてみるべきだと思います。
検診には、必ず「内診」がありますので、やはり抵抗のある女性は多いと思います。実際、膣の中へ診察用の器具を挿入したりすることを考えると、恥ずかしさや恐怖が先立つかもしれませんが、自分の健康と命のため、これは我慢して受けてみることです。女医さんがいる婦人科を探してみるのも一つの手段でしょう。以下のチェックポイントは、すべて「妊娠・出産」の観点からのチェックポイントです。それらの検診に於いて、何らかの診断を受けた場合は、私のコメントがない場合でも、担当医師と相談して下さい。

婦人科検診の最初は問診です。まずは生理の状態をチェックします。定期的な周期かどうか、出血量や生理痛の度合いはどうか、そういったことから判明する疾患もあります。疾患とまではいかずとも、ホルモンの状態をコントロールして日常生活に影響をきたすような重い生理の症状を緩和することができるかもしれません。生理については、自己診断で見つめ直して、自分で気づいた点を受診時に医師にお話ししましょう。また受診時の質問に直ぐ答えられるよう、まず前回の生理開始日と、普段の生理周期の日数を計算しておきましょう。
次は、家族の医療歴です。家族の医療歴を検討することで、その女性の母親あるいは親族に出た疾患なども検討することができます。特に、乳がんなどは、家系によりリスクが高いなども指摘されることがあります。いろいろな事実を知ること自体、怖いことかもしれませんが、現代医学では「先に知る」ことで、あとで問題を回避できる状況が多くありますので、ご自身のお母様と話をする機会をもち、そして勇気を持って問診に臨みましょう。また、家族や近い親戚の中で、お子さんのいらっしゃらないご夫婦が居られたり、不妊に悩まれた方がいらした場合は、原因を知っていても知らなくても、一応担当医師に話しておく方が好いでしょう。

婦人科検診でも一般健康診断もあります。血圧、脈拍、身長、体重などを計ります。尿検査で糖尿症状がないかなども調べることがあります。胸部レントゲンを行う場合もありますが、レントゲンは、妊娠している場合には胎児にとって危険になり得ますので、妊娠の可能性が少しでもある場合は、必ず医師にその旨を伝えて下さい。
次は触診です。乳がん検査の第一ステップとして、乳房や脇の下の触診により、しこりや腫れなどがないことを確認します。がんではなくても、乳腺炎などの診断につながることもあります。
腹部の触診によって、子宮筋腫の可能性を調べます。子宮筋腫は、自覚症状がない場合も極めて多く、妊娠・出産が視野に入っていない時は、日常生活に全く悪影響を及ぼすことがない場合もあります。しかし妊娠を望む際、筋腫の位置や大きさによっては、卵巣に全く問題がなくても、妊娠そのものを阻む場合もあります。
初めての婦人科検診の場合、抵抗があるのが内診だと思います。しかし、内診によってはじめて診断できる症状や疾患があります。膣からの検診・触診などで、腹部からの触診では分からない筋腫やポリープなどが判明することがあります。
超音波検診は、膣から超音波プローブという器具を挿入し、超音波画面で子宮の状態や卵巣の状態を調べる検査です。この検査は希望しなければ行われないこともあります。
血液検査で、ホルモンの状態、貧血症状があるかどうか、感染症や性病の有無、妊娠期に初回感染すると胎児にリスクが発生する風疹や水痘水疱瘡などへの交代などを調べることができます。もし風疹や水痘への抗体がない場合(予防接種を過去に受けただけの場合、稀に抗体が消えてしまっていることもあります)は、妊娠に備えて予防接種を受けておくべきです。但し、これらの予防接種は生ワクチンなので、ワクチンを受けた後数か月は妊娠しないことが勧められます。避妊期間を含め、詳細は医師にご相談下さい。
甲状腺に問題がある場合は、妊娠しにくくなっていることがありますが、投薬で対処することが可能です。
血液型をはっきり知らない場合は、この時に同時に調べてもらえると思います。
クラミジアに感染したことがある場合など、自覚症状が通常ないので、放置された状態だと、不妊症につながることがあります。
その他、必要にお応じて、担当医からほかの血液検査も勧めらるかもしれません。
子宮の粘膜を拭い取り、検査に出すことで、子宮頸がんの検査を行います。簡単に終了できるのに大変有効な検査であり、20代からできれば毎年検査するのが有効です。内診の際に併せて行われることが多いでしょう。
子宮頚部粘膜テストはクラミジアの検出を行います。
尿検査は、糖尿症状が出ていないか、感染症がないかを確認します。
一般的には、ここまでに述べたような検査が行われますが、ほとんどの方は「異常なし」という結果が出されることでしょう。まずは第一関門突破です。

直ぐに子供が欲しい場合の検診は、一般検診だけではなく、その旨をはっきりと医師に伝えましょう。個々のケースに従って、あるいはあなたの年齢に従って、医師が指導をしてくれるでしょう。
多くの医師は「基礎体温表をまずつけてきて下さい」と指示することがあります。これは、意味のある基礎体温表を得るまでに、少なくとも月経周期の2周期分が必要となりますので、およそ2か月を要することになりますので、思い立ったらすぐつけ始めましょう。基礎体温というのは、風邪を引いて熱が出た時などに使用する体温計とは全く別の、「婦人体温計」を使用します。薬局で市販されており、毎朝起きた時に、口に含んで数分間計測するタイプのものが主流です。最近では簡単に計測できる電子婦人体温計も市販されていますし、コンピュータ内蔵の自動記録・グラフ表示機能が付ているものもあります。
もし、あなたが既に37才以上の場合は、悠長に2か月間の基礎体温データを得るのを待っているわけにはいきません。その間になにかできることはないか、積極的に進められるよう医師と予約可能な必要検査などを、相談するのも有効な手段の一つです。

不妊大国ニッポン

不妊大国ニッポンの現状

数年前、産婦人科の現場を舞台に、様々な人間模様をドラマ化した番組が人気を博していました。視聴率が良かった理由ですが、人気俳優が主役を演じただけでなく、その題材が多くの人の周りにある現実だったからだと思います。
ところで子供を望んでいる人は非常に多いのに、なぜ世の中では少子化が問題になっているのでしょうか。不妊治療を受けている人の数はなぜ増加傾向にあるのでしょうか。もう一度妊娠・出産の現状を振り返ってみましょう。

一般に避妊をしないで妊活をしていても、2年以上妊娠しない場合不妊症と診断され、その患者数は世界中で増加しているそうです。不妊症と診断されるカップルは、一般的には1015%の割合でどの国にも存在しているそうですが、日本では晩婚化と晩産化によって、不妊をより深刻化させているようです。
近年、女性の平均初婚年齢は29歳となっており、新生児の約6割は30代のママから生まれているのです。ドラマの中でも言っていましたが、卵子は齢をとって行くもので、不妊治療を先送りすると妊娠の可能性はどんどん下がってしまいます。一説によると、今不妊治療を受けている人の90%は、10年前に妊活をしていれば自然妊娠していただろうと言われています。

現在、日本には不妊治療を行っている病院・クリニックが約600軒あるそうです。アメリカですら500軒無いと聞いていますし、世界一の人口を抱える中国で約300軒だそうです。日本は世界一の不妊治療大国になってしまいました。

また日本は、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療(ART)の治療件数では世界一です。2015年にはそのART51,001人の赤ちゃんが誕生しており、同年の出生数が1,005,677人であるため、日本の現状は20人に1人がART由来であると言えます。
ドラマの中では、不妊治療は自然妊娠を促進する治療をすることではないと示唆していましたし、「子供を授かるために医療の力を借りることは、恥ずかしいことでも、特殊なことでもない」と言っていました。
先端医療の力を借りて子供を授かることが当たり前の時代が既に到来しているのです。そういう時代になっているにも拘らず、正しい情報が身近にあるかというと、必ずしもそうではなさそうです。

少し横道にそれますが、昭和20年代を振り返ってみましょう。

日曜日の夕方放送される「サザエさん」が発表されたのは昭和214月です。サザエさんの実家である磯野家の家族構成はその頃の日本ではごく普通だったのでしょう。磯野家の主婦であるフネさんは、今の感覚ではおばあさんに見えますが、作者である長谷川町子さんが想定した年齢は48歳です。波平さんは55歳定年の時代でまだ現役ですから53歳位でしょう。サザエさんは20代前半で既にタラちゃんの母親です。ワカメちゃんはフネさんが39歳の時に出産した末っ子だそうです。20代前半から家族の世話に明け暮れてきた昭和半ばの40代女性と、社会進出を果たし自分で稼いだお金でファッションや化粧やエステに投資できる現代のアラフォー以降の女性とではセルフイメージが大きく違っても仕方がないですよね。でも、外見が大きく変わっても卵巣は昔と変わっていません。女性が出産できる限界年齢は延びていないのです。それどころか、古い統計と現代を比較すると、昔の女性の方が生殖機能が強く、遅くまで出産できたようです。
晩婚化・晩産化が進行してしまっている現実を踏まえて、これからの家族の姿・在り方に焦点を当てた社会のカタチを考えなければいけません。

少子化は日本の大きな社会問題ですから、不妊は日本の未来を左右する大問題です。しかし不妊治療を支援することが、少子化の解決に直結するとは限らないでしょう。何故、今、不妊治療を応援しているのかを考えた時、相矛盾するかもしれませんが、不妊治療に頼らざるをえない人を減らすことがより重要なのだとの結論に達しました。不妊治療を応援するというささやかなアクションを通して、より健全な社会作りに貢献することが私たちの目的でなければいけないのだなあと強く感じます。より健全な社会作りを目指して、不妊に悩む方やその予備軍というべき方々に正確な知識の伝達をすることは大変重要です。女性が若くして子供を産める社会作りのためには、保育所の整備、多様な雇用制度の確立、等々に加えてシングルマザーや婚外子を認めることなども真剣に議論すべきではないでしょうか。諸外国の婚外子の比率を見てみると、フランスでは50%を超えており、アメリカは40%に達しているのに対し、日本は僅かに2%で先進国の中では極めて低い現状です。

不妊は、個人の問題ではなく現代社会の悲鳴です。新たな不妊患者が生まれない新しい社会システムを構築できるかどうかに、この国の未来が懸かっている気がします。 

妊娠力と出産力

妊娠力と出産力

妊娠できる身体かどうか、ということを考える時、まず改めてきちんと把握しておきたいのが、「月経」、つまり毎月の生理のことです。「なぁんだ、当たり前のことじゃない」と思われるかもしれませんが、この生理が大変重要な鍵を握っています。
まずは、月経について以下の項目と自分の生理について確認してみて下さい。そして、その中で自分なりに自己診断を行い、「問題がない」と判断しても、あとに述べるような検診を受けたことが無い場合は、一度受けてみて、あなた個人の「妊娠・出産力」を確認しておくべきでしょう。
・月経の有無
・月経周期
・月経痛と出血量
これらのそれぞれについて、詳しくみてみましょう。

たいていの女性は10代前半で初潮を迎えます。生理は煩わしいものかもしれませんが、「生理がある」ということ、更には「生理周期の長さ」などは、卵巣や子宮の機能の状態を知るために大変重要なことです。健康な機能を持っている卵巣と子宮がある場合、卵巣の中にその月経周期で一つのグループの「アントラル卵胞」が現れます。1回の月経周期につき、健康な卵巣内では、アントラル卵胞は8~20個程度見られることが多く、その後、その中で一番大きく成熟した卵子が排出(排卵)され、その時に精子による受精がなければ、後日生理出血が起こります。これはどうしてかというと、排卵の頃に向けて、身体の複雑かつ精巧なメカニズムが「妊娠の用意をするために、子宮の中を妊娠しやすいように準備するように」という指令を出すのです。そうすると、卵巣からの分泌ホルモンであるエストロゲンが発射され、その働きによって子宮内膜が厚くなってゆきます。しかし、排卵はしたものの受精が起こらず、この月経周期では子宮内膜を厚くしておく必要がなくなると、身体のメカニズムにより、今度は不要となった子宮内膜が自然に剥がれ落ちます。 これが生理出血です。生理がある、ということで、「卵巣が何らかのレベルで機能している」という事実と、「子宮があり、子宮内膜ができていた」という2つの事実が分かります。当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、実はこの2つが妊娠するにあたって非常に重要な要素なのです。つまり、妊娠が成立する3要素のうち、卵巣と子宮という2つの要素について情報を得ることができるわけです。「生理があるから妊娠できる」という言い方は、必ずしも真実ではありませんが、まずは「妊娠・出産力」を考えるにあたっての第一ステップとなることは言うまでもありません。

16才を過ぎても生理が始まっていない場合は、直ぐに専門医による診断を受けて下さい。初潮が単に遅れている場合もありますし、ホルモンのバランスが悪いだけの場合もありますが、稀に診断されるべき疾患が隠されている場合もあります。ターナー症候群、あるいはターナー症候群のモザイク型であることによって、卵巣機能が働いていない、といった卵巣機能の発達の問題、あるいはロキタンスキー症候群という子宮欠損症だったり、子宮の発育が進んでいない、といった子宮の問題である場合もあります。
ホルモン異常が認められる場合はホルモン療法で対応したり、膣や処女膜閉鎖や子宮奇形などの診断があった場合には、手術で対応することになるかもしれません。どんな症状でも、早目に診断を受け、対処することが肝心です。
また10代で生理がいったん開始したのに、その後、一般の更年期の年齢層に達していないのにまた止まってしまったという場合も、煩わしい生理がなくて楽だ、とは考えずに、すぐに専門医に診てもらいましょう。あるべき生理がないということは、何かがうまく機能していないという証拠ですから、ストレスや過度のダイエットによる体重の変化などが原因である場合は、ライフスタイルを改善したり、ちょっとしたホルモン治療を行うことで問題を正すことも可能かもしれません。
早期閉経等の診断を受けた場合で、将来の妊娠・出産を考えるならば、卵子提供プログラムが視野に入ってきます。
また子宮欠損症や重度の子宮奇形が見つかった場合は、代理出産プログラムが視野に入ってきます。
卵巣・子宮両方にそのような診断がされた場合にはドナー卵子+代理出産という選択肢が存在します。

月経周期というのは、生理出血が開始した日を周期の第1日目として、次の生理が開始する前日までの日数をいいます。生理出血が終わった翌日から次の生理出血が始まる前の日までと、勘違いされている方がおられるので、再確認して下さい。月経周期の標準は、大体28日前後と考えられています。大雑把にいって、そのちょうど中間あたりで排卵が起こると考えられます。排卵が起こるあたりが、子宮内膜が一番厚くなっていると考えられる頃です。月経周期には個人差があり、25日~38日の間であれば正常範囲とされているので、25日未満、あるいは38日を超える場合には、排卵機能に何らかの問題がある場合があるため、専門医の診断を受けるべきです。初潮を迎えた後の数年や、閉経が近づいてくる頃には周期がばらついてくることが多くあるようです。それ以外の年齢層であるにも拘わらず生理不順が著しいようでしたら、専門医の診断を受けてみるのが良いでしょう。

月経周期がいつも短い場合で、基礎体温表の高温期と呼ばれる排卵から次の生理出血までの期間が短い場合は、黄体機能不全といって妊娠しにくい可能性もありますので医師の診断を仰ぎましょう。基礎体温表でいう低温期、つまり生理出血の開始から排卵までの期間が短いのは、更年期によく見られます。

月経周期が長すぎる場合は、卵巣機能の低下がある場合もあり、なかなか排卵しない、あるいは排卵していない、という状況になっているかもしれません。更には、初潮が10代の終わり頃と遅く、かつ年齢がまだ20代なのに月経周期が長いといった場合は、多嚢胞性卵巣症候群である可能性もあります。いずれにしても専門医に相談することが肝要です。
月経周期にバラつきがあり、短くなったり長くなったりが極端な場合も、卵巣が正常に機能していない可能性がありますので、専門医に相談しましょう。
生理痛は、残念ながら、多かれ少なかれ、どうしても付き物の不快な症状です。なんの疾患がなくても、毎回ひどい生理痛に悩まされている女性は多いものです。生理になると立ち上がれない、必ず学校や仕事を休まなければならない、というほどひどい痛みがある場合は、念のため専門医の診断を受けることをお勧めします。特に診断が無い場合も多いのですが、場合によっては子宮内膜症や子宮筋腫などが見つかることもあるかもしれません。

卵巣は2つあります。自分自身の身体のことなのに、卵巣やら子宮やら、ということについては何となく恥ずかしくて、保健の教科書に出ている図解などをサラッと見ただけ、という女性も多いと思います。よくあることなのですが、女性の体の中には、卵巣が左右に2つある、ということを不妊治療するまで知らなかった、という方が意外と多いのです。毎回の生理で、排卵は、右と左の卵巣のどちらかから交互に行われます。理想的には、もちろん両方の卵巣が健康で正常な卵巣であることです。両方が正常でなくても、どちらか1つが機能していれば妊娠の可能性は残されています。生理の時、あるいは排卵の時期に下腹部痛がある場合、右側寄り、左側寄り、と痛みがどちらかに偏っている場合は、それを医師に伝えて下さい。それから、教科書で図解を見ても、具体的にどのあたりに卵巣があるのか、というのは意外につかめませんよね。卵巣は膣の奥に近い当たりの左右にあります。痛みがある時は、背中の痛みのように感じる方も居られます。こういった具体的な痛みについても、気づいたことは医師に伝えましょう。出血量についても、立ち眩みや眩暈がするほど大量の出血がある場合も、専門医を受診した方が好いでしょう。我慢できないような痛みが伴っている場合はなおさらです。何の疾患もないのにそういう症状が出る方も居られますが、念のため、子宮内膜症や子宮筋腫などの問題がないかどうかを、専門医に診てもらいましょう。

妊娠を望む方へ

年代別、妊娠を望む方へ

10代後半は生物学的には最高の妊娠適齢期ですが、社会的適齢期、つまり精神的あるいは経済的にはちょっと無理があるかもしれません。
まだ学生の方も多く、親から独立していない場合も多い年代ですから、子供を責任もって育てる意思がないのなら、避妊が絶対条件です。1回だけだったのに妊娠、ということがこの年代には大いにあり得ます。望まない妊娠の場合、中絶するケースが極めて多いと思いますが、もし望まない妊娠をしてしまって、中絶が必要になってしまったら、きちんとした医療施設で丁寧な中絶手術を受けましょう。この掻把術が上手く行われていない場合、子宮に癒着(傷)が残ることがあり、それが原因で後に子宮内膜が育たない、というような問題に発展することもあります。術後もきちんと医師の指示に従うことが肝要です。何度も中絶を繰り返すと、きちんとした手術を受けていても子宮内に癒着が残る可能性が出てくるので、妊娠を望まないなら避妊が不可欠です。

20代は、21世紀のライフスタイルの中でも、社会的妊娠適齢期としても最適で、生物学上でも素晴らしい結果を出せる妊娠適齢期です。
現在でも、日本では20代後半で初産というケースが極めて多いのです。まだまだ卵子の生殖力は高いので、基本的には安心していてよい時期です。ひと昔前に言われていた「25才はお肌の曲がり角」とか、「クリスマスケーキ(25日を過ぎると値が下がるという意味)」のような、今では死語になっている意地悪な言い回しの中に、実は生物学上の真実が隠されていたのかもしれません。つまり、一通りの教育を受けることを終了し、社会に出て、20代のうちに結婚して、30代前に妊娠・出産というのが、生物学上もうまくいく可能性が高いという事実です。妊娠を希望する20代の方は、まず避妊を止めて自然に任せてみましょう。およそ8090%の方が1年以内に妊娠すると予想されます。タイミング法を念頭に置いて1年を経過しても妊娠しない場合には、ご夫婦そろって専門医に診てもらいましょう。

30代は、21世紀のライフスタイルに密着した多くの女性の「希望的」妊娠適齢期ですが、生物学上の適齢期としては、ちょっと怪しくなってくる時期です。
統計によると、およそ32才頃までは、だいたい安定した高い妊娠の可能性が認められています。しかし、その後は、年齢とともに徐々に「妊娠力」が低下していきます。およそ35才頃から、卵子の老化に伴い、卵子そのものに染色体異常が起こる可能性が上昇し、ダウン症児の出産率が上がっていきます。ダウン症児を立派に育て上げて居るご家庭は沢山ありますが、妊娠中の女性は、やはりこの可能性について心配するのもまた現実です。そして、37才頃から妊娠率は急降下を始め、40代に入ると妊娠率が極めて低くなっていく、というのが現実です。妊娠率が急降下を始めると同時に、折角妊娠しても流産に終わるケースが増えていきます。自己卵子による「妊娠適齢期」として、そして生殖補助医療(不妊治療)になるべくお世話にならずに妊娠・出産をするには、できれば35才までを考えたいところです。
35歳以上の初産は、「高齢出産」ということでリスクが高くなる妊娠とみなされています。35才を超えたからといって即不妊治療が必要という意味ではありませんが、35才を超えたら単に自然にまかせるということではなく、妊娠するという目的に向かって、より積極的な手段を考慮すべきです。35才頃から卵子の染色体異常が認められる確率が高くなってきますが、染色体異常が起こっている卵子の数が増えてくると、受精しない、あるいは受精しても受精卵が子宮内に着床(妊娠成立)できない、あるいは着床しても早期流産になる、といったことが起こる確率が高くなります。
治療の有無に関わらず、結果を出したい、つまり妊娠して出産する、という目的を果たすのであれば、一般的には30代まで、つまり40代に入る前までが適切といえます。30代前半の場合は、避妊を止め、まずはタイミング法を念頭において、自然にまかせてみましょう。1年経っても妊娠しない場合は、ご主人と共に専門医へ行くことをお勧めします。35才以上の場合は、1年以内であっても思い立ったらすぐに専門医へ行きましょう。37才以上の方は、積極的なタイミング法の開始と同時に専門医に相談すべきです。妊娠率が急降下し始める37才からは、妊娠に向けての正念場となります。30代後半になると、婦人病が発生することがあります。子宮内膜症の症状が進んでしまったり、子宮筋腫ができていたりするケースもあります。そのような場合は、それらが不妊の原因になってしまうことも多々あります。また初産年齢が高い女性の場合、乳がんの発生リスクなども高くなるといわれています。この時期になったら、不妊治療は開始しなくても、婦人科検診を少なくとも年1回受信して下さい。理想的には、20代の頃から年に1回婦人科検診を受けるのがお薦めですが、この時期からでも遅くはありません。

40代は、生物学上はかなり厳しいので適齢期とはいえませんが、場合によってはまだ間に合うかもしれない「社会的」適齢期です。
つまり精神的にも経済的にも安定という意味からだけみると、最高かもしれません。卵子の老化によって、妊娠率が極めて低くなるだけではなく、妊娠しても初期流産の可能性やダウン症児の妊娠の可能性が高まります。不妊治療を必要とした女性については、米国では別の統計があり、その場合、満45才での妊娠率はほぼ0%になることが分かっています。そのため、米国のほとんどの生殖医療クリニックでは、その女性本人の卵子による体外受精治療は、基本的には満45才で締め切られているのが現実です。もちろん例外はありますし、すべての女性に当てはまるわけではありません。さらに、自己卵子による体外受精でも、現在の受精卵凍結技術の発達により、より年齢が若いうちに体外受精・凍結した受精卵にて、45才を超えて妊娠する女性はもちろんいます。自然な妊娠というのは、40代では大変厳しい状態になるため、40代に入ってから妊娠を望む女性については、「自然にまかせて妊娠を待つ」のでは、子供を授かる可能性を逃してしまうかもしれません。一般的にいわれている、「1年自然にまかせてみて、ダメだったら治療を」という考えは、40代に入るともう当てはまりません。ですから、かなり積極的な生殖補助医療が一般的に勧められています。子供が是非とも欲しいと考えるなら、すぐにでもご主人と共に専門医に行くことをお勧めします。結果的に異常なし、という診断が出ても、自然周期での妊娠率が、個人差はあるものの40代に入ると515%と推定されているため、医師による専門的所見を受けるのが肝要です。「問題なし」という結果が出ていても、卵巣機能の低下は現実として起こっているので、積極的な取り組みが必要なのです。40代になると、かなり早い段階で体外受精が勧められるケースが多いのですが、すぐに体外受精に踏み切れない場合でも、例えば「人工授精を23回行ってもダメなら体外受精」といった形で積極的にステップアップして行き、とにかく残された時間を有効に使ことが肝要です。40代になったら「自然」ということにこだわっていると、自己卵子による妊娠がまったく可能ではなくなってしまうことがあります。妊娠率が515%という数字は、生理が順調な女性でも年間に12回程度しかチャンスがないことを考えると、非常に厳しいことがお分かりいただけるかと思います。 しかも流産率は50%にも上っており、チャンスを待っているうちにも卵巣機能は衰えて行き、確実に確率は下がってゆきます。繰り返し述べていますが、40代での妊娠の可能性は、個人差があり、チャンスが無いわけではありません。しかしチャンスを逃すリスクが高くなってくるので、まずは専門医の診断を受けることをお勧めします。更に、女性側に問題が無くても、パートナーの男性の数値が低い場合もあります。そういった場合、良い状態の精子を選別して人工授精をすることだけで結果が出ることもあります。とにかく40代に入ったら、「躊躇しないで積極的に」がキーワードです。
前にも書きましたが、子宮内膜症や子宮筋腫がもともとあった女性の状態は、更に悪化している可能性もあります。子宮の老化は、卵巣ほど早く老化せず、子宮という機能だけを見ると、60代になっても十分妊娠可能な場合がありますが、それでもやはり子宮の筋層部などの状態に老化現象が現れます。 子宮腺筋症の症状が見られることもあります。 そうなると、卵巣機能の低下との両方で、妊娠への期待が厳しくなります。子宮内膜症や子宮筋腫は、自覚症状がないケースもあり、検査して初めてわかることもありますので、 早い時期での検査がもちろんお薦めです。乳がんや子宮頸がんの検診を含む婦人科検診を毎年1回受診するべきです。
また米国での治療状況を書きましたが、40代は卵子の老化が顕著になっていますので、子宮の老化がこれ以上進む前に、第三者からの卵子提供を受けての体外受精を積極的に考えるべき年代です。

50代は、第三者から卵子提供を受けての妊娠など、第三者の卵子を受け入れる気持ちと健康状態が良好ならば妊娠可能です。
社会的には、精神的にも経済的にも安定しているでしょうし、「適齢期」とはいえないものの個人的チョイスによって、まだ親となる道が残されている年齢層です。ただ、無事に出産しても、子育てに必要な体力が問題になってきます。50代に入ると、自己卵子での妊娠は不可能であると考えられています。50代のうちに閉経する女性は多く、また50代にはいる頃には、閉経していないまでも、生理が極めて不順な状態になって入り女性も多いのです。満55才までは卵子提供プログラムを受けることを認めている医療機関もありますが、治療開始前に厳しい身体検査に合格しなければ受け入れられません。高血圧や糖尿症状がある女性は基本的に不適格と判断され、循環器に問題がある場合も勿論不合格です。健康状態が極めてよく、子宮の状態にも問題が無い場合のみGOサインが出るのです。50代での妊娠は、周りの目や体力が気になってくるかもしれないので、本人のリスクに対する自覚と、強い意志、そして理解ある産科医の協力が無ければ妊娠に挑戦すべきではないでしょう。

60代では、子宮の状態が大丈夫であれば、卵子提供を受ければ技術的には妊娠可能ですが、医療上のリスクが高くなり過ぎるため、どんなに健康状態が良くても、ご自身での妊娠はお勧めできません。

エンジェルバンクでは、卵子提供プログラムや代理出産プログラムの勉強会やご相談、無料での個人面談を随時行っておりますので、お問い合わせ下さい。

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